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Thursday, May 18, 2023

Netflix 『ザ・クラウン』 season 5 まで

【5月17日 記】 Netflix の『ザ・クラウン』(The Crown)を season 5 まで見終わった。season 5 で終わりだと勝手に思い込んでいたのだが、season 6 を今年中に配信するとのテロップが出て驚いた。当初から 6 seasons, 60 episodes と発表されていたらしい。

いずれにしても壮大なドラマである。これはイギリスの大河ドラマだと思う。

NHK の大河ドラマは1話45分で週1回、1年間の放送なので合計 40時間弱だが、この『ザ・クラウン』は 60話。ネット上のコンテンツの常で毎回の尺は決まっておらず、50分前後のこともあれば1時間を大きく超えることもあるが、仮に毎回 60分だとしたら合計 60時間となり、大河を凌駕するボリュームである。

そのボリュームの中でエリザベス2世の少女時代から、どうやら彼女の死までを描くのだろう。

それにしても驚くのは、この撮影の規模である。英国の王室の話なので、当然彼らは巨大な城に住んでいて、しかも城は1つではなく、広大な土地を持っており、そこで猟銃を持って狩りにいそしみ、競走馬の馬主であり、大型船に乗って世界に航海し、外交目的で諸外国にも渡る。

このロケやセットは一体どこなのか? どこまでがロケやセットなのか? CG はどの程度使ったのか? ──その辺のことは分からないのだが、ともかく毎回毎回圧倒的な景色なのである。

そして、このドラマの特徴は、王族も我々と変わらない人間なのであって、王族には王族の、我々とは全く違った強烈な束縛があって、とても生き辛いのだということに焦点を絞っているところである。脚本、演出ともに見事としか言いようがない。

エリザベスの伯父であり彼女の前の前の国王であったエドワード8世が、惚れた女と結婚するために王座を投げ出したとか、エリザベスの妹のマーガレットは妻子のある役人と恋に落ち彼の離婚を待って結婚することを望んだが、さまざまな因習に押し潰されて引き裂かれ、あてつけみたいに他のプレイボーイと結婚したが、その結婚も後に破綻したとか、チャールズとカミラのダブル不倫もそうだが、チャールズの妹のアンも離婚していたとか、そんなことをこのドラマで初めて知り、みんなそんなに結婚生活がうまく行かなかったのかと驚いた。

国王が首長を務めるイギリス国教会は離婚や再婚をおいそれと認めないところが何よりも悲劇である。そこに当然エリザベス自身の葛藤もある。

もちろん描かれているのは恋愛だけではない。政治的な発言ができない中でのエリザベスの政治的な矜持と行動、歴代首相との関係(特にサッチャーとの関係は面白かった)など、多岐にわたる内容である。政治の世界だけではなく、いろいろな世界の有名人がいろいろなところで王室と繋がって、そこにドラマが生まれていたりもする。

エリザベスの失敗めいたこともしっかりと描かれている。そして、何よりもエリザベスの息子であり現国王であるチャールズ3世が、かなり否定的に描かれていることに驚く。いや、否定的というのはあくまで僕の捉え方であって、作者が一応ものごとの両面を描こうとしているのは窺える。

ただ、僕が見る限り、チャールズは子供の頃からヘタレで、性格は幼稚で、そのくせ頑固で、確かに母親よりも世間の動向をしっかりと捉えてはいるし、王室の改革者であろうとしているのは分かるが、傲慢で、時として姑息な行動に及ぶ、何ともいけ好かない野郎なのである。

その一方で、もちろん彼女の行動にも瑕疵はあったにしても、僕はダイアナ妃に大いに同情してしまった(きれいな女優さんが演じると、どうしてもそんなことになってしまうw)。そして、決してダイアナをいびったわけではないにしても、結果的に彼女を突き放して不安に陥れたエリザベスを恨めしくも思った。

このドラマは米英共同制作だが、脚本家はイギリス人である。よくこんなものが書けたと思う。いや、逆にイギリス人だから書けたのかもしれないが。いずれにしても日本でこんな描き方のドラマを放送すると、右翼の街宣車が放送局に押しかけるのではないだろうか。

しかし、気をつけなければいけないのは、ここに描かれていることが必ずしも歴史の真実ではないのだということだ。歴史小説や時代劇の危うさはそこにある。

原作者はもちろん膨大な資料を読み込んでいるとは思うが、その資料の空白部分を自分の想像で埋めているのは間違いない。そして、会話の一つひとつについては、それらを側で聞いていたわけではないのだから、基本的に脚本家の空想である。台詞のひと言ひと言に騙されてはいけないということだ。

ただ、これは歴史を学ぶ学生たちにとって良い教材になるのではないだろうか?

このドラマで描かれていることのうち、この部分は史実と合致している、これについてはこの文書や記録映画にしっかり残っているが、この点については明らかに事実ではない、あるいは複数の見方がある──などと検証しながら観ると大変勉強になると思う。

まあ、なんであれべらぼうなドラマである。season 6 が楽しみである。

しかし、当然のことながら登場人物がどんどん老いて行くので、ドラマが進むに連れて華やかさは失われる。このシリーズは 2 seasons ごとに役者が変わるのだが、season 1-2 の若きエリザベス(クレア・フォイ)や season 4 のダイアナ(エマ・コリン)がめちゃくちゃ愛らしかっただけに残念ではある(笑)

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