映画『少女は卒業しない』
【3月9日 記】 映画『少女は卒業しない』を観てきた。朝井リョウ原作、中川駿監督・脚本。ちなみに中川監督はこれが初長編、初商業映画らしい。
全く知らない監督とは言え、この映画は早くからマークしていたのだが、結局やっぱりパスしようかなと思い始めていたところ、思いの外評判が良いので気を取り直して見に行った。で、かなり良かった。正直びっくりした。
ほとんどの場面が高校の校舎や校庭のシーンである。そんな中で人がよく動く。
通例こういう映画では画面の前面中央にメインの登場人物がいて、その背景に同級生たちが映り込んでおり、彼らはその場であまり動かずに、喋ってはいるが声は聞こえない。
ところが、この映画では背景の同級生たちが非常によく動いており、さかんにフレームイン/フレームアウトがある。
実際の高校生がそんなにじっとしているはずがないので、こういう演出はとてもリアルだ。しかも、その動きが如何にも高校生が教室や校庭でじゃれ合っている感じが出ている。
メインの人物が歩いていてカメラも動いているときにも、その背景で名もない役者たちが語り合い、動き回っている。
ものすごくデザインされた画作りである。ちなみにカメラマンの伊藤弘典は中川監督の出世作『カランコエの花』も撮った人らしい。
長回しも結構使っているのだが、このまま最後までワンカットで行くのかなと思ったら、さらっとカット変わりして別の構図になる。この辺りのリズムが非常に気持ちが良い。
卒業式後の図書室での作田(中井友望)と坂口先生(藤原季節)の2ショットでは、カメラがゆっくりゆっくりと左に動いている。そんなところにも作田の先生に対する思いともどかしさ、バツの悪さがよく出ていた。
階段のところで後藤(小野莉奈)が彼氏である寺田(宇佐卓真)の話を親友の倉橋にしているところに、他の生徒が階段を上がってくると、2人は話をやめて、彼らが通り過ぎるのを待って小声で話を再開する。──そういう演出もめちゃくちゃリアルだ。
ちなみに小野莉奈は『アルプススタントのはしの方』の主演の子。
他の人物のことを先に書いてしまったが、主人公は山城まなみ(河合優実)である。河合優実は『由布子の天秤』と『サマーフィルムにのって』で注目を浴び、さまざまな映画新人賞を受賞した女優だが、その辺りの映画は観ておらず、全く知らなかった。
その後 MBSの深夜ドラマ『夢中さ、君に』や映画『ちょっと思い出しただけ』にも出ていたが、僕が彼女の名前をはっきりと記憶したのは僕が2本目に観た映画『愛なのに』の、古本屋(瀬戸康史)に恋する女子高生役だった。この娘は良い、と思った。
その後、彼女は立て続けに映画に出演して、僕は昨年だけで彼女の出演作を6本観たことになる。それから、同じく昨年の NHKのドラマ『17歳の帝国』も非常に良かった。次回作は伊藤ちひろの監督2作目の『ひとりぼっちじゃない』ということで、こちらも大いに楽しみである。
さて、この映画で描かれるのは山梨県のとある高校の卒業式前日と当日の2日間。メインの登場人物は全員3年生。老朽化によって校舎は卒業式を最後に取り壊しになり、高校自体も移転することになっている。
卒業生代表で答辞を読むことになっている山城まなみは、卒業後調理専門学校に進学することになっている。つきあっている駿(窪塚愛流)のためにお弁当を作ってやり、誰もいない家庭科室で2人でお弁当を食べるのが彼女の楽しみだった。
後藤由貴は寺田賢介とつきあっているが、心理学を学ぶために東京の大学に進む後藤と、地元の大学で教員免許を取得して地元で教師になろうとしている寺田との間がぎくしゃくして、もうダメかもしれないと思っていて、親友の倉橋洋子が相談に乗ってやっている。
神田杏子(小宮山莉渚)は軽音部の部長だ。卒業式のあとに部員の3バンドが体育館でライブをすることになっているが、その出演順で揉めていると2年生の小西真由美から報告を受ける。
3つのバンドのうち一番おちゃらけで、他の生徒たちが笑いものにしているのが、ヘビメタ/パンク系のエア・バンド HEAVEN'S DOOR で、そのボーカリストが神田の中学の同級生・森崎剛志(佐藤緋美)である。
小宮山莉渚はなんと 2005年生まれの現役高校生。ソフトバンクのドラえもん・シリーズの CM でしずかちゃんをやっていた子だ。佐藤緋美は浅野忠信と Chara の息子で、『ケイコ 目を澄ませて』でのケイコの弟役も良かった。
そして、もうひとつのエピソードがクラスで誰とも馴染めなくて図書室が唯一落ち着ける場になっている作田詩織だ。そこで優しく声をかけてくれるのが坂口先生である。藤原季節が、「自分も高校時代は作田さんと同じだった」と言う、如何にも線の細い感じの先生を好演していた。
ちなみに作田役の中井友望は『かそけきサンカヨウ』も良かったが、今回はもっと印象が強い。
原作は連作短編で7つのエピソードから成っており、映画ではそのうちの4エピソードを抜いているのだが、原作と重なっているのは 20% ぐらいだと言う。にもかかわらず、原作者の朝井リョウはこの映画を激賞している。
それだけのことからしても、この映画の出来が如何に素晴らしいかが分かるだろう。
如何にも高校生らしい台詞が巧い。如何にも高校生らしい喋り口と動きが秀逸。そして、カメラワークに独特のリズムがある。単に平淡な日常生活を描いて終わりかと思ったら、終盤で明かされる秘密もあって、飽きない。
僕は朝井リョウは『何者』しか読んでいない(映画『桐島、部活やめるってよ』は観ているが)が、最後までストーリーを追うと、確かに朝井リョウっぽい話だ!と思った。
ああ、高校生時代って、こんな感じで悩ましい日々を送っていたんだなあという深い感慨。とは言いながら、自分の卒業式がどんな日だったのか思い出そうとしてもさっぱり思い出せなかったけれど(笑)
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