映画『シン・仮面ライダー』
【3月19日 記】 丸の内TOEI で映画『シン・仮面ライダー』を観てきた。
先に観た知人によると、これは昭和ライダーであり、平成ライダーや令和ライダーのファンはがっかりするかも、とのこと。そりゃまあ、庵野秀明監督の年齢を考えると当然昭和ライダーだろう。
僕は庵野監督よりほんの少し年上で、『仮面ライダー』の放送が始まったときには子供向けの実写ヒーローものはそろそろ卒業という感じだったのだが、この番組だけはなんか今までのヒーローものと違うぞと思って時々見ていた。
その 10年後に、最初の『仮面ライダー』を製作し(業界で言う「衣」付きの「製作」であり「制作」ではない)発局となって全国放送していた局に縁あって入社し、その 6年後には何年ぶりかの『仮面ライダー』テレビ放送復活に関わり、担当営業マンとして『仮面ライダーBLACK』と『仮面ライダーBLACK RX』を見守ってきた。
大泉の撮影所にも通ったが、数寄屋橋の東映本社にもよく行った。まだ若かった僕からしたら、当時の東映や石森プロの面々は魑魅魍魎みたいな人ばかりで、えらくしんどかった記憶がある。
そんな思い出もあって、この映画は、その東映本社ビルの1階にある丸の内TOEI でどうしても観たかったのである。ほんの数分歩けば TOHOシネマズ日比谷の IMAX 画面で観られたにも関わらず。
で、いきなり走る車のタイヤが映って、なんじゃこりゃと思ったらもう映画は始まっていて、しかも怒涛のカーチェイスである。池松壮亮が後ろに浜辺美波を乗せて逃げるバイクを何台かの大型車が追っている。説明は後回しの小気味よいオープニングだ。
んでまた、その後も展開速い速い! 説明を小出しにしながらどんどんストーリーが進んで行く、と言うか、うねって行く。
庵野監督が踏まえているのは当然最初のシリーズである。緑川博士と娘のルリ子、本郷猛、後に登場する一文字隼人など何人かの個人名、そして悪の組織名ショッカーも継承されている。
違いはライダーが殴るとおびただしい血が吹き出ること。これは splatter と言うよりも gory という感じで、つまりエグい。
ライダーキックについても、昔のように蹴られた怪人がぶっ飛ばされて何故か爆発してしまうのではなく、そのままライダーの足が乗ったまま壁や地面まで到達し、そこで踏み潰されてまたもや血が溢れて死ぬ。今映画にするならこうでないと、と庵野監督は思ったんだろうな。
その一方でライダーキックをするときのアクションとアングルは昔のライダーキックそのままだし、悪者たちがカメラをまたいで飛ぶところを下から狙った映像など、昔と同じチープな感じもわざと残している。オーグ(昔で言う「怪人」)が死ぬと泡になって消えて行くさまも昔を彷彿させる。
音楽にしても同じで、格闘シーンになると時々、今聞くとちょっと違和感のあるような軽快な 70年代風劇伴になったりもする。
この辺りは「どっちに向かって遊ぶか」みたいな感じがあってとても面白い。
仮面ライダー本郷猛(池松壮亮)のキャラも、絶望を経験したコミュ障のバイク乗りという、まことに現代的な(笑)設定である。優しくて敵を殺すことを躊躇するという、今までにはなかった設定が新鮮であった。
そして、浜辺美波が演じたルリ子はライダーの産みの親である緑川博士(塚本晋也)の娘なのだが、普通の人間ではなく、緑川博士の遺伝子を受け継いで人工子宮から生まれた生体電算機であるというとんでもない設定である。この彼女の能力がショッカーのオーグたちを倒す鍵になる。
自分の感情を常に押し殺して切り口上で語るルリ子と弱気になって迷う猛との対比がこれまた面白い。ルリ子に「私は用意周到なの」という台詞を何度も何度も喋らせている辺り、本当に用意周到な脚本だと思った。
他にルリ子や猛と組んでショッカーと対決する政府と情報機関の男として竹野内豊と斎藤工が出てくるが、この2人が立花と滝と名乗っているのはTV版第1シリーズの立花藤兵衛と滝和也を踏まえているのだろう。
あと、仮面ライダー2号である一文字隼人(柄本佑)が最初は敵として現れるので、これはこのまま行くのか寝返るのかと少し心配になったが、すぐに収まるべきところに収まった。これまた本郷猛と対照的に自由気ままな性格というのが却々巧い設定である。
そして、ラスボスとして登場する森山未來が「仮面ライダー0号」と名乗るのも面白い。
所詮はヒーローものなので、感動したとか圧倒されたとかいうことはないのだが、非常に手間と金のかかった特撮/VFX を含めて大いに楽しめた。去年 Amazon で配信した白石和彌監督の、どこまでもダークな『仮面ライダー BLACK SUN』と比べると、どちらも面白いが、庵野監督はやっぱり初代ライダー世代だなあという感じが強い。
そして、しっかり昔を踏まえた上で、ショッカーが「ショックを与える人 shock+er」ではなく、何かのアクロニム(早すぎて憶えられなかったけど)になっていたり、ショッカーの創設者が作った世界最高の人工知能アイが自律型人工知能ジェイを作り出し、それが進化してケイになったとか、細かいところのマニアックな設定が嬉しい。
喋ったときに仮面の口の部分が少し動くとか、そういうこだわった画作りはすごいと思った。とにかくカット割りが細かくて、また、電柱が並んだ木更津など風景も印象的だった。
仮面ライダー2号が1号に別れを告げてバイクで去って行くシーンでは、バイクが下手に走ってフレームアウトするのかと思ったら、一旦下手に走って1号の前を通り過ぎてからUターンして上手に消えて行く作りになっていて、とにかくそんなあちこちに画のこだわりを感じた。
エンドロールのキャストを見ていると、「え! そんな人出てたの?」という、特殊メイクでさっぱり分からなかった大物俳優の名前が続々出てきて驚いたが、これもまた庵野監督一流の仕掛けなんだろうなと思う。
ああ、面白かった。
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