映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
【3月4日 記】 映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を観てきた。この邦題は如何なものかと思うが、そのことはまた別の機会に。
最初に予告編を見たときには観る気は全くなかったのだが、何度か予告編を見せられているうちに面白そうな気がしてきて、本国アメリカではアカデミー賞を獲るかもしれない勢いと聞き、とりあえず観に行った。
冒頭からいきなりとっ散らかった感じで、どういう設定なのだかあまりうまく頭に入ってこない。そもそも会話が英語と中国語のチャンポンだ。
ネイティブと話す時は英語、中国人同胞と話す時は中国語、という風にきれいに分かれているのではなく、ひとつの文中に英単語と中国語単語が入り乱れているというハチャメチャがなんだか象徴的である。
中国系移民でコイン・ランドリー(店自体は結構大きい)を経営するエヴリン(ミシェル・ヨー)とウェイモンド(キー・ホイ・クァン…『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』の少年だったと後から知って驚いたが、たしかに面影はある)の夫婦。
机の上には小さな紙片が散らかっていて、エヴリンが必死で整理している。どうやら全てが領収書のようで、明日国税庁に行かなければならないらしい。エヴリンの父ゴンゴン(ジェームズ・ホン)も同居していて、彼は最近中国からアメリカに来たらしい。エヴリンの娘ジョイ(ステファニー・スー)は英語が堪能で、本来通訳として一緒に国税庁に出向くはずだったが、女性のパートナーを連れてきたことで母親と喧嘩になり帰ってしまう。
この辺の設定が分かりにくいと言えば分かりにくい。
で、仕方なく娘抜きの3人で(なんで車椅子の父親まで連れて行く必要があるのかよく分からんが)国税庁に行くが、係官のディアドラ(ジェイミー・リー・カーティス)にこてんぱんにやられる。
その途中で旦那とそっくりだが別のマルチバースであるアルファバースから来たと言う別のウェイモンドに異空間に連れて行かれ、一緒に悪と戦うように要請される。
エヴリンにとっては一体何がなんだかさっぱり分からない話で最初は当惑一辺倒なのだが、その心情とここまでのとっ散らかった展開が非常にマッチしているのがおかしい。エヴリンが心を決めかねているうちに、税務官のディアドラが別世界のディアドラになって襲いかかってくるなど、まさにカオスである。
ヒーローもヒールも中高年の女性というのはハリウッドからは出て来ない発想ではないかな(笑) バトルはマジだがところどころで笑える。
別世界から来たウェイモンドに指南されて、エヴリンは次第に戦い方を覚える。なんか突飛なことをするとエネルギーが溜まって平行世界に飛んで行けて、そこでいろいろな才能を開花させている別の自分から能力をインプットできるのである。
その突飛なことがこれまた突飛すぎて笑えるのだが、そのおかげで彼女はカンフーの達人に変身したりする。
他の職業に就いている自分がいるだけが平行世界ではなく、全ての人間の指がソーセージに進化している世界とか、生物が一切存在せず、自分も石になるしかない世界だったりするところが、発想がぶっ飛んでいて面白い。
格闘シーンもトリッキーで結構楽しめたのだが、しかし、悪の正体が別世界のジョイだったということが判明した後、中盤少し中だるみを感じた。
そして、充分に予想してはいたのだが、最後は案の定アメリカ人が大好きなファミリイズムの結末になる。中国人同族の固い絆とも重なっていて、この辺りはアメリカでもあり中国でもある。
最初の上映は SXSW映画祭だったそうで、そう言われると如何にもそれっぽい。タガが外れた発想の勝利と言えるだろう。しかし、インディペンデント系のスタジオが最初からよくこれだけの金をつぎ込んで作ったものだと思う。監督はダニエルズという二人組。プロデューサーはかなりの大物である。
本編中にはたくさんのパロディやオマージュがあったようで、僕も僅かながらそのいくつかには気づいたが、もっともっと分かる人ならきっともっと笑ったんだろうなと思う。
映像的にはとても楽しめた。この色彩感覚は好きだ。見終わった感想としては、まあ、アクション・コメディだし、どうってことないと言えばどうってことないのだが、娯楽映画ってそんなもんだろう。「毎度馬鹿馬鹿しいお笑いで」と監督がニコニコしながら言っている様を想像した。
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