『芸能界誕生』戸部田誠(書評)
【3月8日 記】 僕はこういう分野の話が大好きである。それは長らく放送局に勤めていたからと言うよりも、むしろそういう世界に憧れて放送局に入ったと言うべきなのだと思う。
2006年5月26日(土)と27日(日)の2日間にわたってフジテレビが放送した『ザ・ヒットパレード 芸能界を変えた男・渡辺晋物語』というドラマがあって、僕はこのドラマがものすごく好きだった(これはもちろん入社後であるが)。
ちなみに渡辺プロダクションの創設者である渡辺晋・美佐夫妻を演じたのは柳葉敏郎と常盤貴子だった。何かの創成期を扱ったドラマが面白いのは、それが一種の梁山泊的な場を扱っているからだ。
このドラマでも、後の芸能界で活躍する歌手や作詞・作曲家、マネージャーなどが全てこの渡辺夫妻の周囲に集まっている。
恐らくこのドラマの原作となったのが『芸能ビジネスを創った男 渡辺プロとその時代』(野地秩嘉)という本で、その後加筆されて『昭和のスター王国を築いた男 渡辺晋物語』という本になっている。
言わばこれらは芸能界の全てが渡辺夫妻の周りから始まっているという話である。
それに対してこの『芸能界誕生』は、日本の現在の芸能界は全て「日劇ウェスタン・カーニバル」に端を発している、という構成である。もちろんその多くのパートに渡辺夫妻は出てくるし、野地氏の著書からの引用もある。
けれど、ウェスタン・カーニバルに関わった人たちという括りにすると、同じく構造的には梁山泊だが、もう少し規模の大きい梁山泊ということになる。
僕もまあ一応放送局にいたので、既に知っている話も多く書いてあった。しかし、放送局と言ってもあまり芸能界に近い部署で働いていなかったこともあって、初耳の話もたくさん載っていた。
ここにはいちいち引用しないが、それらのエピソードがいちいちめちゃくちゃ面白いのである。やっぱり創成期の混沌とした中で破天荒の試みが功を奏するといった物語には、成熟期を扱ったドラマからは得られないダイナミズムがある。
ちなみに僕は昔、田辺エージェンシーの田邊昭知社長が出席した会議に出席したことがある。
僕はもちろんスパイダースのドラマーとしての田辺さんは知っているが、その後どういう経緯で彼がプロダクションを立ち上げるに至ったかなんてことはまるで知らなかった。その辺りのことをこの本で読むと、あのときの会議で感じた何とも言えないカリスマ性が脳裏に甦るのである。
「前説みたいなもの」というタイトルで「まえがき」を寄せているのがハウフルスの菅原正豊さんである。この名前を聞いて「おお!」と声を上げてしまった人は是非ともこの本を読むべきだと思う。菅原さんは文中にほとんど出て来ないが、この本は菅原さんが著者に執筆を依頼したことから始まっているのだ。
その辺りの経緯は著者が自ら「あとがき」に記しているが、ここで著者が菅原さんの紹介をする際に、当然『タモリ倶楽部』や『THE 夜もヒッパレ』などの大ヒット番組を列挙しているのだが、彼が冒頭に挙げたのはなんと 1986年と 1987年に日本テレビで放送した『メリー・クリスマス・ショー』なのである。
このセンスが僕にはたまらないのである。
ともかく激しく面白い。読み終わった今、次は Netflix とかがこれをドラマにしてくれないだろうかと淡い期待を抱きながら、本の内容を反芻している。
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