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Wednesday, February 22, 2023

浪曲事始め

【2月22日 記】 twitter で相互フォロワー関係にある毎日新聞の文化芸能担当記者の方のツイートで知って録画した『NHK浪曲特選』を観た。

実は僕は小学生時代に浪曲にかなり興味を持っていた。そう、「熱心に聴き始めた」というレベルには達しなかったが、かなり興味を持っていた。

小学生がなんでそんなじじむさいものを?と思われるかもしれないが、僕らが子供のころには日本の文化はいろいろなところで浪曲との接点があった。

例えば歌謡曲では三波春夫や村田英雄と言った浪曲師出身の歌手が数多く活躍していた。浪曲師出身でなくても、例えば畠山みどりなど「浪曲歌謡」というジャンル名で括られた歌手も大勢いた。

もう少し時代が下って、たとえば初期の水前寺清子なども完全にその路線で、市川昭介が作った『涙を抱いた渡り鳥』の冒頭の4小節

〽 ひと声ないては旅から旅へ
(『涙を抱いた渡り鳥』、星野哲郎作詞、市川昭介作曲)

なんかは完全に浪曲の節回しだ(5小節目から徐々にフツーの演歌になる)。

そんな歌手たちが好きだったかと言うと全然そんなことはなかった。特に水前寺清子は大嫌いで、あのころは大晦日には 19時から『日本レコード大賞』、21時から『紅白歌合戦』と、全くテレビの前から離れる暇がなかったのであるが、僕はいつも水前寺清子の出演する時間帯を狙ってササッと入浴していた記憶がある。

でも、なんか浪曲には興味があったのである。

お笑いの世界でも、ボーイズ漫才の中には宮川左近ショーや玉川カルテットなど浪曲をベースにしたグループが上方にも江戸にもいくつかあった。

一方でテレビを見ると、浪曲師の玉川良一が

〽 利根の川風袂に入れて

と歌ったところで横から何かの人形が出てきて、玉川が「まだ早い、まだ早い」とたしなめる CM があったが、あれは何の CM だったか? CM のほうは調べていないが、浪曲のほうは調べてみたら『天保水滸伝』で、なんと三波春夫の大ヒット曲『大利根無情』と同じく平手造酒を歌ったものだと知って驚いた。

ほかにも山本山が『清水次郎長伝』の森の石松の一節をパロディにした CM を放送していたりと、僕らは日常的に浪曲と接していたのである。

で、僕が浪曲のどこに惹かれたかと言うと、何よりもそれはドラマであったからだ。いや、drama と言うよりも narrative かな。そう、まさにあれは起伏に富んだ narrative である。

勢い時代劇ということになるのだが、今回の『NHK浪曲特選』でも星新一のショートショートを浪曲にした作品が披露されていたように、古典落語に対する新作落語のような現代ネタもあるようだ。

そして、浪曲は narrative であり、今で言うなら音声メディアである。また、伴奏は基本的に三味線一本なので unplugged と言える。演奏はかなり ad lib っぽく、スリリングだ。その伴奏者とテンポやトーンを合わせて掛け合う session であるとも言える。

今整理してみると、僕はそういうところに惹かれたのである、と言うか、そういうところに改めて気づいて、今回一度じっくり聴いてみようという気になったのである。

今回『NHK浪曲特選』を観ていて驚いたのは、『左甚五郎千人坊主』の中に宮川左近ショーのオープニングと同じ節回しと歌詞が2箇所出てきたことである。

僕は当時宮川左近ショーに何の興味もなかったが、今ではなんか懐かしくて、かつ何度も聞いたものだから彼らのオープニンは最初から終わりまで歌えるのである。原典に当たって確認したら節回しを微妙に憶え間違えている箇所もあったが、歌詞は完璧に暗記している。だから気づいたのである。

ははあ、彼らはこんなところから材を取って漫才に使っていたのか、となんだか非常に感慨深かった。

長くなってしまったので番組の中身に触れるのはやめておくが、とても面白かったし、機会があればまた聴いてみたいと思う。

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