「キネマ旬報」2月下旬号(2)
【2月6日 記】 さて、今年も例年通り前年のキネマ旬報ベストテン絡みの追加分析記事を書いてみました。
いつもと同じく今回も冒頭でそれがどんな分析なのかを書いておきます:
キネマ旬報ベストテンは、審査員がそれぞれ合計55点を持って、1位には 10点、2位には 9点、…、10位には1点と入れて行き、その合計得点で順位が決められています。今回2022年第96回の審査員は「本誌編集部」を含めて 59名です(前回は62名でした)。
そのそれぞれの映画の得点を、僕は「合計点=点を入れた審査員の人数×平均得点」という形に分解してみます。そうすることで映画がどんな風に評価されたかが窺えるからです。
例えば同じ 150点獲得の映画でも、一方は
(a)合計150点=30人×平均5.00点
他方は
(b)合計150点=20人×平均7.50点
だったとすると、(a) は多くの人に広く受けた映画、(b) は特定の人の心に深く刺さった映画と言えるのではないか、ということです。
これは統計学的には必ずしも正しい手法ではありませんが、投票結果の上位 10本ぐらいに絞ってやっている限りは映画の傾向をうまく捉えているのではないかと思っています。
さて、2022年の結果は:
- ケイコ 目を澄ませて
239点=32人×7.47点 - ある男
195点=29人×6.72点 - 夜明けまでバス停で
149点=24人×6.21点 - こちらあみ子
101点=19人×5.32点 - 冬薔薇
97点=15人×6.47点 - 土を喰らう十二ヵ月
96点=15人×6.40点 - ハケンアニメ!
96点=15人×6.40点 - PLAN75
96点=15人×6.40点 - さがす
84点=14人×6.00点 - 千夜、一夜
84点=15人×5.60点
個々の映画の特徴を見る前にまず言えるのは、今年は得点のばらつきが大きくて、どの映画も高得点を獲得していないということです。なんと 100点以上が4本しかありません。
審査員の数が一定していないので単純に比較はできませんが、通常は 100点以上が7~8本はあります。10位までの全作品が 100点以上というケースも決して珍しくありません。
僕の手許には 1997年度以降の採点表が全部揃っていますが、その中で 100点以上が一番少なかったのは 2004年度の5本です。今回はそれを下回りました。
しかし、2004年は審査員が 54名と少なく、しかも1位の『誰も知らない』と2位の『血と骨』がともに 300点超え、3位の『下妻物語』も 200点超えとトップ3がかなりの票を集めた結果の 100点以上5本ですから、2022年度は(昔と比べて上映された映画数がどれだけ増えたと言っても)票が相当バラけてしまったのだということが分かります。
そして、これだけ票がバラけて各映画の得点が少なくなってしまった結果、それぞれの作品の差が得点からは見えにくくなってしまいました。
今回は同点6位が3本(しかも5位とは1点差)、同点9位が2本あるので、同点の映画同士を比較するときっと面白いぞと思っていたのですが、上の一覧を見ていただくとお判りのように、ほとんど違いが見えないのです。平均点同士を比較すると順位が逆転するようなケースが少ないのです。
これまで何年もこの分析をやってきて毎回面白いなと思っていたのですが、今回は残念ながら完全にあてが外れました。
わずかに言えるのは、『ケイコ 目を澄ませて』が強かったということと、『冬薔薇』は思い入れの強い審査員が多かったが広い支持は得られなかったということ、逆に『夜明けまでバス停で』と『こちらあみ子』は高評価と言うよりも多くの人に受け入れられた映画だったということぐらいでしょうか。
でも、そんなことよりも一番大きな特徴は、やはり票が割れたということでしょう。何しろ1点以上入った映画が 140本近くありましたから。これはここ数年ではかなり多いと言えます。
今回は書き甲斐のない記事になってしまいました(笑)
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