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Tuesday, February 28, 2023

映画『BLUE GIANT』

【2月28日 記】 映画『BLUE GIANT』を観てきた。

僕の周りの人がみんな褒めていた。そして、そのうちの少なからぬ人たちが激賞していた。普段あまりアニメを観ないような人まで観に行っていた。

上原ひろみが手掛けた音楽が素晴らしいのだろうという想像はつく。でも、それだけではなさそうだ。それが何なのか知りたいと思った。単に他人が褒めているというだけでは心が動かないが、それを超えるものがありそうだったった。

ジャズのプロ演奏家を目指す若者たちの話。原作の漫画については全く知らなかった。僕は他のジャンルに比べるとジャズの CD は数えるほどしか持っていないが、嫌いではない。上原ひろみのアルバムも1枚だけ持っている。

見始めて最初に圧倒されたのが、その画力である。僕の周りにはストーリーについて書いている人が多く、画力についてあまり触れていないのが意外なのだが、アニメである限り絵の表現力が最重要ポイントであることは言うまでもない。

平面アニメと 3DCG の組合せで、演奏シーンなどではモーション・キャプチャーもかなり使ったようだ。

とにかく構図が飛び抜けている。主人公がサックスで豪快な音を鳴らすシーンでは真下から煽った角度で描いていたりする。実写でこれをやろうとすると役者をアクリル板の上に載せるしかなく、まさにアニメでしか描き得ない表現になっているところがすごかった。

そして、素晴らしいのはその瞬間の画だけではなく、そこからの構図の動きであり、変化である。人物は大きく動き、それを捉える視点も縦横無尽に動く。そこに光の変化、影の動きも加わって、まさに圧倒的なカットになっていた。

演奏者の背後や、会場の環境、都市の風景なども極めて忠実にきれいに描かれているのだが、演奏シーンになるとそこに心象風景的なものも加わって、かなりぶっ飛んだ画面になる。写実的な意味でも比喩的な意味でも、これは究極の作品だったと思う。

心象的な風景、比喩的な意味というのは、例えば数十年前のアニメ『巨人の星』では、主人公の飛雄馬の情念を表すには、マウンドに立った飛雄馬の目の中でメラメラと炎が燃えるぐらいが関の山だったのを、この映画ではその 100倍以上のバリエーションと迫力で描き分け、描き切っているということだ。

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Saturday, February 25, 2023

『ギフテッド』鈴木涼美(書評)

【2月25日 記】 AV女優出身の文筆家と聞いて少し読んでみたら、そこら辺にあるタレント本みたいな文章ではなく、しっかりと書かれた小説のようだった。そうか、芥川賞候補作品だったのかと分かって、急に惹かれて読んでみたのだが、そもそもが慶應義塾大学の学生だったとは知らなかった。

ずっと折り合いの悪かった母親が病気になり、自ら死期が近いと悟って、娘を頼ってきた。その母を狭い自宅に住まわせ、後に病院に移し、そこで看取った娘の手記という体を採っている。

ここでは主人公はAV女優ではない。友だちのひとりとして「風呂屋の女」は出てくるが、主人公自身は体を売っておらず、従ってこの小説に赤裸々なセックス描写は出て来ない。

昔母親にタバコを押しつけられてできた火傷の跡を隠すためにタトゥを入れており、タトゥのために「風呂屋」には勤められないという事情もある。

彼女はキャバクラかどこかに勤めていて、多分新宿とか新大久保とかのゴミゴミした地域に暮らしている。どこかのビルにある彼女の部屋へと続く内階段のドアの蝶番が軋る音から小説は始まり、その描写はその後も何度か出てくる。

そういう雑音としか言えない環境音を小説のキーとして使うところが独特である。

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Friday, February 24, 2023

映画『ちひろさん』

【2月24日 記】 映画『ちひろさん』を観てきた。Netflix でも観られるのだが、どうしても映画館で観たかったから。

僕が大好きだった番組のひとつに毎日放送が深夜・関西ローカルで放送していた『田村淳のコンテンツHolic』というのがあった。毎回ひとりのゲストがホストである田村淳に自分がハマっているコンテンツ(映画でも小説でもアニメでも何でも良い)を紹介する番組だ。

2020年の 8月に今泉力哉監督がこの番組に2週連続出演しており、そのときに紹介したコンテンツのひとつが安田弘之による『ちひろさん』というコミックスだった。この回はめちゃくちゃ面白かったのだが、まさかその漫画が今泉監督によって映画化されるとは想像さえしなかった。

その時に紹介されたエピソードは、元風俗嬢で今はお弁当屋さんで働いているちひろさんが、親しくしていたホームレスが死んでいるのを見つけて自分で穴を掘って埋める話だった。法律的に言うとこれは紛れもなく死体損壊罪なのだが、世間的な常識や偏見に一切囚われることなく、ゆるぎのない信念に従って生きているちひろさんにとっては当然果たすべき供養を果たしたというだけのことである。

その辺の正しさと強さが心にしみるのである。

今回の映画ではそのちひろさんを有村架純が演じており、映画が始まってすぐにそのホームレスが出てきたらニットキャップマンさながらの鈴木慶一だった。

折しもちょうど2日前に岡田徹の訃報に接したばかりだったし、『ニットキャップマン』も岡田徹の作曲だったので、なんだかとても感慨深い、と言うか、端的に言って切なかった。

そのホームレスの話が映画の中で一番強烈なエピソードだったのは間違いないが、一事が万事そういうちひろさんを描いたのがこの映画なのである。逆に言うと、それ以外にはそれほど大きな事件が起きるわけではないし、その事件も尾を引かない。分かりやすい起伏がある感動の名作などでは決してない。

だから、こういう映画を撮ろうとする監督は少ないと思う。まさにそこが良いのである。なんと言うかちひろさんの物の考え方、生き方がしみてくるのである。

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Thursday, February 23, 2023

映画『湯道』

【2月23日 記】 映画『湯道』を観てきた。初日に観る気はなかったにもかかわらず、『ちひろさん』が満員でチケットが取れなかったのでこちらを先にしたのだが、あまり期待せずに観に行ったのに予想を遥かに超える素晴らしい出来で感服した。

企画・脚本は小山薫堂で、非常によく練り込まれた見事な構成のコメディだった。僕の感性からすると、『おくりびと』なんかより今回の脚本のほうが遥かに良かった。

先代の主人が亡くなった直後の銭湯を舞台とした、グランド・ホテル形式と言っても良いような、大勢の登場人物をあしらった物語。ユーモアとペーソスを織り込んだ、ほんとにお風呂に入った後のように温まる映画である。

父親亡きあと「まるきん温泉」を切り盛りしているのは次男の悟朗(濱田岳)と住み込みのアルバイト・いづみ(橋本環奈)。そこへ東京で個人経営していた建築事務所が行き詰まって実家に戻ってきたのが長男の史朗(生田斗真)である。彼は銭湯を廃業してそこにマンションでも建てようという算段だ。

父親の葬式にも帰ってこなかった兄に冷たく当たる弟と、いつまでも儲からない仕事を続けている弟を馬鹿にする兄は当然ギクシャクしている。そんな2人をなし崩し的に取り持つのがいづみである。

銭湯にはいろんな客がやってくるのだが、それとは別に「湯道会館」での湯道指南の様子も描かれる。「湯道」というのは丸っきりの想像上の産物ではなく、小山薫堂がすでに 2015年から唱え始めているのだそうだ。

ここでは湯道の家元を角野卓造が、その弟子を窪田正孝が演じており、ギャグがすべる角野とどこまでも真面目一徹な窪田の対比が面白い。そして、その会館に通い始めたのが定年近い郵便配達人(小日向文世)で、彼は家風呂の改修の期間中まるきん温泉に通うことになる。

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Wednesday, February 22, 2023

浪曲事始め

【2月22日 記】 twitter で相互フォロワー関係にある毎日新聞の文化芸能担当記者の方のツイートで知って録画した『NHK浪曲特選』を観た。

実は僕は小学生時代に浪曲にかなり興味を持っていた。そう、「熱心に聴き始めた」というレベルには達しなかったが、かなり興味を持っていた。

小学生がなんでそんなじじむさいものを?と思われるかもしれないが、僕らが子供のころには日本の文化はいろいろなところで浪曲との接点があった。

例えば歌謡曲では三波春夫や村田英雄と言った浪曲師出身の歌手が数多く活躍していた。浪曲師出身でなくても、例えば畠山みどりなど「浪曲歌謡」というジャンル名で括られた歌手も大勢いた。

もう少し時代が下って、たとえば初期の水前寺清子なども完全にその路線で、市川昭介が作った『涙を抱いた渡り鳥』の冒頭の4小節

〽 ひと声ないては旅から旅へ
(『涙を抱いた渡り鳥』、星野哲郎作詞、市川昭介作曲)

なんかは完全に浪曲の節回しだ(5小節目から徐々にフツーの演歌になる)。

そんな歌手たちが好きだったかと言うと全然そんなことはなかった。特に水前寺清子は大嫌いで、あのころは大晦日には 19時から『日本レコード大賞』、21時から『紅白歌合戦』と、全くテレビの前から離れる暇がなかったのであるが、僕はいつも水前寺清子の出演する時間帯を狙ってササッと入浴していた記憶がある。

でも、なんか浪曲には興味があったのである。

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Tuesday, February 21, 2023

初めての PCR検査

【2月21日 記】 昨日、生まれて初めて PCR検査を受けた。

ひょっとしたらコロナになったかも、と思ったわけではない。

よく行くビルの近くの特設会場で東京都が無料でモニター検査をやっていたからである。そもそもここでは自覚症状のある人は検査を受けることはできない。

新型コロナウィルスが現れて以来、勤めていた会社では死者も含めて多くの患者が出た。母も罹患した。一緒によく旅行に行く5人のグループがあるのだが、そのメンバーで罹っていないのはとうとう僕だけになってしまった。

そんな状況下で幸いにして僕も妻も感染はしていないようだ。いや、ひょっとして2人とも感染はしたけれど単に無症状だっただけなのかもしれないと夫婦で言ったりはしているのだが。

そういうわけで昨日まで一度も検査を受けたことがなかったのだが、この特設会場の前を通り過ぎるたびに、単なる好奇心からではあるが、いつか受けてみようと思っていたのである。

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Sunday, February 19, 2023

Play Log File on my Walkman #151

【2月19日 記】 今年に入って2回目のプレイログ披露。150回もやっておいて今更ながらではあるが、我ながらそんなもん披露してどうする?という気がしないでもない(笑)

でも、まあ、このくらいの頻度だったら良いかな。今回も5曲。

  1. め組のひと(ラッツ&スター)
  2. 荒地の何処かで(佐野元春)
  3. 虹とスニーカーの頃(チューリップ)
  4. 鬼火(MOONRIDERS)
  5. カイト(嵐)

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Saturday, February 18, 2023

Netflix & Amazon Prime 鑑賞記録

【2月18日 記】 他人様に見てもらってどうと言うのではなく、自分用の単なる備忘録ですが、前に書いた Netflix & Amazon Prime 鑑賞記録を更新しておきます。前書いたときには忘れて書き落としているものもあったので、それも訂正しています。

仕事を辞めてから Netflix や Amazon Prime 鑑賞記録をよく観るようになりましたが、それは時間ができたからではなく、時間ができたおかげでここには面白いものがたくさんあることを知ったからだと思います。

まだ途中までで見終わっていないのは『ザ・クラウン』と『舞妓さんちのまかないさん』。一応見終わって次のシーズンを待っているものも何作かあります。『ザ・クラウン』の出来があまりに素晴らしく圧倒されています。

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Friday, February 17, 2023

【note】テレビが何故こんなに力を失ったかを考える

【2月17日 貼】 あちこちにいろんなこと書いていて、すっかりこのブログのことを忘れていました(笑)

とりあえず、note に上げた記事を貼っておきます。

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Sunday, February 12, 2023

1000円もらうのは大変だ

【2月12日 記】 前にもここに書いたと思うが、シェーバーを買い替えたのである。ひとつには BRAUN が「使わなくなったシェーバーをリサイクルして最大 5000円キャッシュバック」というキャンペーンをやっていたからである。

「最大」と書いてあるということは、多分僕のケースでは最大にならないんだろうなと覚悟はしていた。でも、僕が使っていたのもそんな安物ではない。多分中級じゃないかな、と自分では思っていたのだが、調べてみると 5000円の下に 4000円、3000円といろいろな段階があるのではなく、なんと 5000円と 1000円しかないのであった。

当然最高級品だけが 5000円キャッシュバックで僕のは 1000円である。

それでもまあいいや、と思って新しいのを買ったのであるが、このキャンペーンの応募方法が面倒臭い。

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Saturday, February 11, 2023

映画『#マンホール』

【2月11日 記】 映画『#マンホール』を観てきた。酔っ払ってマンホールに落ちた男の、ほとんどワン・シチュエーションのドラマ。監督が熊切和嘉でなかったら観なかったと思う(しかし、これは今まで僕が知っていた熊切和嘉と全然違っていた)。

エリート営業マンで、自分が勤務している会社の社長令嬢との結婚式を明日に控えた川村俊介(中島裕翔)は友人たちが開いてくれたサプライズ・パーティの後、酔っ払って歩いていたらマンホールの穴に転落する。

登り降りするための鉄の梯子はあちこち朽ちていて登れない。おまけに落ちたときにその梯子の折れたところに右足を引っ掛けたらしく、ざっくりと傷口が開いていてまともに歩くことさえできない。

落ちた空間はわりと広いが、下は濡れていて、むき出しのパイプからはガス漏れしていて、そこへ激しい雨が降ってきて水がたまり、横の排水口からは白い泡がとめどなく流れてきている。友だちや知り合いに片っ端から電話するが、深夜ということもあって誰も出てくれない。

唯一電話に出てくれた元カノの工藤舞(奈緒、俊介の携帯上のプロフィール写真と声だけの出演)に頼ってだんだんいろんなことが分かってくる。まず、俊介の携帯の GPS は壊れている。神泉辺りで飲んでいたのでてっきり渋谷だと思っていたがそうではないらしい。

警察にも電話するが、お役人にありがちな対応をされた挙げ句に酔っ払いの妄想だと思われてしまう。

さあ、ここから俊介はどうやって抜け出すか、という映画なのだが、途中からはここが渋谷でないとしたら一体ここはどこで、誰がどうやって何のために彼をこんな目に遭わせたのか、という映画に変わる。

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Thursday, February 09, 2023

『引力の欠落』上田岳弘(書評)

【2月9日 記】 芥川賞を受賞した『ニムロッド』が面白かったのを思い出して、久々にこの著者の作品を読んだ。

僕が読みながらずっと考えていたのは、著者は読者に「さて、これは何を意味してるんだろうか?」「ここにはどんな意味が込められているんだろう?」「これは何かの比喩なのか?」みたいなことを考えながら読んでほしいと思っていたのだろうか、ということである。

僕はそういう読み方はしなかった。と言うか、普段からあまりそういう読み方はしない。

でも、「なるほど、これはあれの比喩で、あそこはこういう意味なのか!」みたいな感じで小説内のいろんなポイントが繋がって謎が解けて読書終了──というような読み方をしている人もいるんだろうと思う。

そういう読み方をする人には向いていない本だし、そういう人にはきっと許せない小説なんだろうなと思う。

事実 Amazon のレビューに「いつまでも物語は先に進まないまま終わりました」と不興を顕にしている人がいた。

そう、ある意味それはその人の言う通りで、これは何かが起きて解決するさまを追った「先に進む話」ではないのである。

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Tuesday, February 07, 2023

【note】 米国人がやる謎のカニ・ポーズを見たことありますか?

【2月7日 埋】 久しぶりに note に書いた記事を貼っておきます:

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Monday, February 06, 2023

「キネマ旬報」2月下旬号(2)

【2月6日 記】 さて、今年も例年通り前年のキネマ旬報ベストテン絡みの追加分析記事を書いてみました。

いつもと同じく今回も冒頭でそれがどんな分析なのかを書いておきます:

キネマ旬報ベストテンは、審査員がそれぞれ合計55点を持って、1位には 10点、2位には 9点、…、10位には1点と入れて行き、その合計得点で順位が決められています。今回2022年第96回の審査員は「本誌編集部」を含めて 59名です(前回は62名でした)。

そのそれぞれの映画の得点を、僕は「合計点=点を入れた審査員の人数×平均得点」という形に分解してみます。そうすることで映画がどんな風に評価されたかが窺えるからです。

例えば同じ 150点獲得の映画でも、一方は

(a)合計150点=30人×平均5.00点

他方は

(b)合計150点=20人×平均7.50点

だったとすると、(a) は多くの人に広く受けた映画、(b) は特定の人の心に深く刺さった映画と言えるのではないか、ということです。

これは統計学的には必ずしも正しい手法ではありませんが、投票結果の上位 10本ぐらいに絞ってやっている限りは映画の傾向をうまく捉えているのではないかと思っています。

さて、2022年の結果は:

  1. ケイコ 目を澄ませて
    239点=32人×7.47点
  2. ある男
    195点=29人×6.72点
  3. 夜明けまでバス停で
    149点=24人×6.21点
  4. こちらあみ子
    101点=19人×5.32点
  5. 冬薔薇
    97点=15人×6.47点
  6. 土を喰らう十二ヵ月
    96点=15人×6.40点
  7. ハケンアニメ!
    96点=15人×6.40点
  8. PLAN75
    96点=15人×6.40点
  9. さがす
    84点=14人×6.00点
  10. 千夜、一夜
    84点=15人×5.60点

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Sunday, February 05, 2023

映画『スクロール』

【2月5日 記】 映画『スクロール』を観てきた。全く知らない監督だったのだが、出演者に古川琴音、松岡茉優、水橋研二の名前を見つけたので──3人とも大好きな俳優だ(メインの男優2人を飛ばして水橋に目を向けるところが我ながらナイスだと思うのだがw)。

冒頭にいきなり意味不明の超絶長回しのシーンが来る。なんだか現実離れした設定。ここがどこなのかそれが誰なのかさっぱり分からない。靄がかかったような画質で、カメラが左右に小刻みに揺れたりするところもあって結構気持ち悪い。

僕は一般的に言って長回しがかなり好きだが、しかし、これは面白くない。画作りをしたと言うより、まるでウチにはカメラが1台しかありませんと言っているような感じ。三谷幸喜が全編1カットで映画を撮ろうとした時みたいな的外れな感じ。『カメラを止めるな!』みたいな面白さはない。

しまった! あー、こりゃ、とんでもなく面妖な映画を観に来てしまった!と思ったのだが、結論を先に書くと、最後まで観るといろんなものが繋がって来る。最初のシーンについても、やっぱり何だか分からない部分は残るのだが、それなりに納得感が出てくる。

そうかそうか、あれがこれで、それはそういうことか──という風に全部がきれいに刈り取られるわけではないのだがが、それはつまり「描きすぎていない」ということだ。少なくとも僕はそういう風に受け取って、むしろ好感を覚えた。

で、なんだか分からないうちに次のシーンになると、突然撮り方はフツーになり、現実の話になる。

4人の男女の話。冒頭から「死にたい」などと言っている悩み深い<僕>(北村匠海)と何かにつけてチャラいユウスケ(中川大志)。2人は大学の元同級生である。

テレビ局に勤めているユウスケは女には不自由していないが、まともにつきあったことはなく、従って女性とのトラブルが絶えない。そのユウスケが大学時代の別の同級生の自殺をきっかけに、もし自分があの時ああしていれば彼を救えたのではないかと自責の念に駆られ、突然悩み、落ち込み始める。

僕はこのユウスケに対しては割合すんなり感情移入できたのだが、<僕>のほうには共感が湧かなかった。彼が会社で上司からパワハラを受けているという設定は理解したが、そこで描かれるのはただ叱責されているシーンのみだったからである。

会社勤めをしていれば誰だって叱責されたことはあるだろう。確かにそのうちの何%かは非常に不合理で不適切な叱責であるかもしれないが、しかし、彼が何を理由に叱責されているのかを描いてくれないと、僕らはそれをパワハラだと判断する根拠がないのである(もちろん上司の怒り方は適切ではなかったにしても)。

でも、多分今の若い人たちにとってはこういう描き方のほうがなんか悩みを普遍化したみたいで共感を得られるのではないかという気がしてきて、逆にそのことを悲しく感じたほどである。

閑話休題。

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Friday, February 03, 2023

「キネマ旬報」2月下旬号(1)

【2月3日 追記】 今日発売の『キネマ旬報』2月下旬号を入手したので、今年も年末に書いた「『キネマ旬報』ベストテンの20位以内に入ってほしい邦画10本」とつきあわせてみる。

まず、2022年のキネ旬ベストテンの 1位から 20位は下記のとおりである:

  1. ケイコ 目を澄ませて
  2. ある男
  3. 夜明けまでバス停で
  4. こちらあみ子
  5. 冬薔薇
  6. 土を喰らう十二ヵ月
  7. ハケンアニメ!
  8. PLAN75
  9. さがす
  10. 千夜、一夜
  11. 犬王
  12. 夜を走る
  13. マイスモールランド
  14. やまぶき
  15. 流浪の月
  16. あちらにいる鬼
  17. 麻希のいる世界
  18. さかなのこ
  19. 夕方のおともだち
  20. 窓辺にて

今年は同点同順が多い。

僕が観ていないのは、4)、6)の『PLAN75』、12)、13)、14)の『やまぶき』、17)、19)。

そのうち 4)と 6)『PLAN75』、13) は良い評判も聞いていたのだけれど観ていない作品。17)は久しぶりの塩田明彦作品で観たかったのだが見逃した。それ以外は「何でしたっけ、それ?」という感じ。

いずれにしても他の映画賞ではカバーしきれないようなマイナーな作品がしっかりと評価されているのがキネ旬の特徴であり、素晴らしいところであると僕は思っている。

ちなみに 1位に選ばれた『ケイコ 目を澄ませて』は、僕は今年になってから観たので、去年選んだ「『キネマ旬報』ベストテンの20位以内に入ってほしい邦画10本」には当然含まれていない(もしも去年の内に観ていたらどうだったか?と言われても、それは分からないし、そんなことは考えない)。

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Wednesday, February 01, 2023

キネマ旬報ベストテン発表&表彰式

【2月1日 記】 2022年公開映画に対する僕の「『キネマ旬報ベストテン』の20位以内に入ってほしい邦画10本」とキネマ旬報ベストテンの選考結果についての総括記事は、例年通り『キネマ旬報』2月下旬号を実際に手にして、全投票結果が載っている採点表をチェックしてからにするが、今日の「発表&表彰式」の無料配信を観てしまったので、先に少し書いておきたい。

まず、授賞式の模様がライブ配信され、それを自宅のテレビの大型画面で見られる時代が来たことを本当に嬉しいと思う。

で、選考結果であるが、これまた本当にキネマ旬報らしい選考結果で、なんだか嬉しくなってしまう。「らしさ」を維持していることも嬉しいし、その「らしさ」を作り上げているセンスの良さも、僕が他のどの賞よりもこの賞を信頼している所以である。

壇上の三浦友和も言っていたように、低予算映画や単館系映画にもちゃんと目を向けている姿勢をとても正しいと思う。

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