« 『ナイン・ストーリーズ』J.D.サリンジャー(書評) | Main | Play Log File on my Walkman #150 »

Sunday, January 22, 2023

映画『そして僕は途方に暮れる』

【1月22日 記】 映画『そして僕は途方に暮れる』を観てきた。

三浦大輔は僕とは非常に相性の悪い監督である。最初に観た『ボーイズ オン・ザ・ラン』だけはとても良かったので、その後も何本か我慢して観たのだが、いずれも印象が悪い。

特にセックスを描かせるとサイテーだ、と僕は思う。そのくせセックスを描こうとするから醜悪だ、と僕は思う。ひょっとして三浦監督のファンがこれを読んで怒り狂ったりされてもアレだから「と僕は思う」と添えておくが…。

それで今回はセックス・シーンがありませんように、と祈るような思いで見に行ったら、なかった! そして、映画も良かった!

ほとんど自分の都合しか考えていなくて、なにごとにもテキトーに対処してりゃ良いと高を括っており、都合が悪くなると一目散に逃げ出すクズ男・裕一(藤ヶ谷太輔)の話だ。僕は彼に共感のカケラも感じない。

しかし、僕はこういう男が主人公の映画は大好きだ。

彼の周りにもダメな奴がいっぱい出てくる。

浮気をした裕一に取り乱すが、そのくせ吹っ切れずにいつまでもうじうじしている同棲相手・里美(前田敦子)。

小学校時代からの親友だが、どんなに迷惑を被っても裕一に強く言うことができず、逆にへらへらと裕一を気遣うようなことを言ってしまう伸二(中尾明慶)。

裕一を甘やかし放題で、実の息子を君付けで呼び、「ありがとうございます」「すみません」などと丁寧語で喋ってしまう母・智子(原田美枝子)

そして、終盤から出てくる裕一の実父・浩二(豊川悦司)。この男がすごい。10年前に家族を捨てて逃げ、若い女と一緒になったが彼女とも離婚し、離婚のために友だちから借りた金を踏み倒し、社会との繋がりを断って毎日パチンコ三昧。

人生を「ぬるま湯だよ」と嘯き、裕一には「逃げて、逃げて、逃げ続けろ」とアドバイスする。タイプは違うが責任逃れの仕方が僕に自分の父親を思い出させて胸くそが悪くなった。

結局、裕一は同棲相手の許を去り、友だち、先輩、後輩、姉などを頼って渡り歩くが、その性格が災いして、長くても1週間でまたそこから脱兎のごとく逃げ出すことになる。

でも、これが社会から完全にかけ離れた異常な人物を描いている感じがするかと言うとそうではない。不思議に普遍的な匂いがする、と言うか、観ている人に強烈な拒否感を抱かせないと言うか…。いや、むしろ拒否感を抱く暇もなく見入ってしまうという感じかな。

それは「誰にでもこういう面ってあるよね」と観客に同意を求めるような描き方をせずに、ひとりのクズ男に集約してクズぶりを見せるというテクニックを採っているからだと思う。

たとえ彼の行動にうんざりしながら観ていたとしても、他人事だからある意味安心して見ていられる。しかし、その内になんか逃れられないものを観客は感じてしまうのである。

とは言え、僕はもしこの映画の登場人物の誰かから相談されたら、躊躇なく「そんな男とは縁を切れ」とアドバイスすると思う。こんな男はきっといつまで経ってもこうなのだと思う。

そんなひどい男の周囲で前田敦子、中尾明慶、原田美枝子、豊川悦司、そして、香里奈、毎熊克哉、野村周平ら、達者な役者たちが脇を固めて見事な演技をしている。特にやっぱり豊川悦司かな。

雪混じりの北海道ロケもとても印象的な画になっていたし、筋運びもエンタテインメントとして客の心を逸らせない面白いものになっていた。元は同じく三浦大輔作・演出の舞台だったらしいが、そこからさらに完成度は進んでいるのではないだろうか。

ただ、尻がちょっと長いかな。例えば年越しそばの辺りで終わっても良かったかもしれない。

最後の展開は、ひょっとしたら作者は「大どんでん返し」のつもりだったのかもしれないが、僕は途中から容易に想像がついてしまったので驚きはなかった。まあ、でも、あのシーンはやっぱりあったほうが良いかな。だって、主人公には最後まで途方に暮れてもらわないといけないから(笑)

劇伴が素晴らしい。映像や台詞の邪魔をせず、しかし、その場の雰囲気を地味に体現しているので感心してしまった。

そしてエンドロールで漸く、あの名曲『そして僕は途方に暮れる』が流れる。歌っているのは大沢誉志幸だが、映画用の新録で、1984年の最初のレコーディングではシングル・トーンとライン・クリシェが印象的だったが、ここではテンションを使ったジャジーなアレンジになっている。

映画の最後でゴジラロードの突き当りに TOHOシネマズ新宿が映っていたが、まさにその映画館で観た。不思議な気分である。ただ、この監督って、なんかこういうシャレた終わり方をしたがる人なんだよな。

|

« 『ナイン・ストーリーズ』J.D.サリンジャー(書評) | Main | Play Log File on my Walkman #150 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« 『ナイン・ストーリーズ』J.D.サリンジャー(書評) | Main | Play Log File on my Walkman #150 »