ハミガキ考
【12月30日 記】 若い方はご存知ないだろうが(と言うか、これの記憶があるのは今何歳以上の人なんだろうか、よく分からないが)今歯磨きをするときに歯ブラシにつけるもの(多分今は単純にハミガキと言うのが普通なんだろうが)を昔は「歯磨き粉」と呼んでいたのである。
今でもそう言っている人は僕らの世代では珍しくないが、若い世代でもそういう言い方をする人はいるのだろうか? すでに粉ではなくなって随分長い年月が過ぎたというのに。
そう、僕らが子供の頃、あれは粉だったのである。だから、僕らの親の世代は、今みんなが使っているようなチューブに入ったやつのことを「練り歯磨き」と呼んで区別していたのである。
あくまで「歯磨き粉」が本来の状態であり、それに何らかの水分を加えて練ったものがチューブに入っているという理解だったのだ。
では「歯磨き粉」はどういう状態だったかというと、大抵は小さな缶に洗濯用の粉石鹸(あ、それも今はほとんど見かけないかw)みたいなやつが入っていた。僕もそれを辛うじて知っている世代で、あっという間に消えてしまったように思うが、タバコライオンという喫煙者向けの歯磨き粉だけは随分長いことその形態で頑張っていたと記憶している。
どうやって使ったかというと、靴磨きのブラシに靴墨をつけるように、粉の入った缶に歯ブラシの先を突っ込んで、と言うか毛先でなぞって、粉を歯ブラシの毛につけて、そこに水を少しつけて湿らせてから歯を磨き始めるか、あるいは先に歯ブラシを少し濡らしてから缶に突っ込む人もいたかもしれない。
そうすることによって、粉が口の中でペースト状になったのである。
若い人は「それってどうよ」と思うんだろうな。家族全員が同じことをするわけで、ま、家族だから許せるとも言えるが、できることなら大阪の串カツ屋のソースの缶に添えてある「二度漬けお断り」を守ってほしいと、今の人は思ったりするかもしれない(笑)
今日は自分が最初だから良いと考えるのは間違いで、すでに前日に誰かが使った後なわけである。そりゃあ今の基準では気持ちが悪いと思うだろうさ。
まあ、しかし、昔はペースト状にしてチューブに入れるなんて発想も技術も多分なかったからそうなっていたわけで、それはもちろん日本だけのことではなく、どこでもそうだったはずだ。
英語でもハミガキのことは toothpaste と言うが、それは練り物状になってからの呼び方が今定着しているわけである。
しかし、当然英語圏でも最初は歯磨き粉だったはずで、じゃあ、その頃はどう呼んでいたのか? 今のハミガキが toothpaste だから、まさか toothpowder か?と思って辞書を調べてみたら、確かに1単語ではないが tooth powder という表現が載っていた。
うーむ、今のハミガキが「歯の練り物」で、昔のハミガキは「歯の粉」かよ!
dental powder という言い方もあったようだ。それのほうが分かりやすい気もする。
ところで、僕が調べたのは ALC のオンライン辞書「英辞郎」だったのだが、ここでは「歯磨き」で引くと行為としての「歯磨き」しかなく、磨くための薬剤としては「歯磨き粉」とインプットしなければ訳語が出てこなかった。
意外にまだ「歯磨き粉」という表現は残っているのかもしれない。しかし、漢字で書くとやっぱり違和感があるなあ(笑)
Comments