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Tuesday, December 20, 2022

映画『ラーゲリより愛を込めて』

【12月20日 記】 映画『ラーゲリより愛を込めて』を観てきた。

瀬々敬久は別に好きな監督ではない。予告編を観る限りはどうも僕が大嫌いな典型的なお涙頂戴映画のようだ。

それに加えて、物語が「事実に基づいている」ということについては僕は何の価値も認めない。初めから書くための題材や素材があるノンフィクション的な作品より、ゼロから作り出すフィクションのほうがむしろエライと思っているぐらいだ。

そもそも「事実に基づいている」からと言って、事実ではないのである。観客が一番感動した台詞や、クライマックスで主人公が取った行動などが脚本家による創造である可能性は低くない。そういうことに蓋をして、事実に基づいていることを売りにする作品に対してはいつも強い拒否感を覚える。

にも拘わらず見に行ったのは、昔自分がいた会社の出資作品であるということもないではないが、脚本が林民夫だったからだ。この人は僕の信頼する脚本家である。変にお涙頂戴や希望の押し売りにならずに、バランスを失わずに物語を展開してくれるのではないかと期待したのである。

話は単純で、第二次世界大戦の最後にロシア兵に捕まり、シベリアに抑留されて帰ってこられなかった山本幡男の物語である。山本を演じたのは二宮和也だ。僕は二宮のことは彼がかなり若かったころから買っている。

この山本が、どこまでも前向きで、無類の好人物であり、不屈の精神を持っているという設定だ。同じように10年以上抑留された仲間たちを松坂桃李、中島健人、桐谷健太、安田顕らが、そして山本との「約束」を信じて日本で待ち続ける妻・モジミを北川景子が演じている。

役者たちは皆巧い。松坂、桐谷、安田らのキャラは違うがそれぞれ鬼気迫る演技に圧倒された。そして二宮の事務所の後輩である中島健人が巧くなったなあと驚いた。北川景子もはまり役だった。

犬のクロを絡めたのは大正解で、このクロと山本の「遺書」を巡るストーリーで泣き落とし作戦は完結する。

いや、むやみに貶す気はない。ちょっとお尻が長いけど、よく練った脚本である。希望を与える物語だ。僕も落涙はしなかったが目頭が熱くなった。

その一方で目を伏せた安田顕の睫毛が長いのに驚いたり、抑留兵はヒゲを生やしている者もいたがきれいに剃っている者もおり、かつ髪の毛は皆短く刈ってあったので、果たして彼らは収容所でハサミやカミソリなどの刃物を使うことを許されていたんだろうかなどといろんなことを考えていた。

できの悪い映画だなんて言う気はない。日本アカデミー賞なんかを獲っちゃったりする映画なんだろうなと思う。ただ、もしも自分に映画を撮るチャンスが与えられたらこんな作品を撮りたいかと言われると、それはない。

松坂桃李が二宮和也についてこんなことを言っている:

現地でご一緒させていただいて思ったのは、なんと“抜け感”のある方なんだろうと。脱力の天才というか、僕が出会った役者さんの中でも、ここまで力みがない方は見たことがないです。

言い得て妙である。

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