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Sunday, December 25, 2022

回顧:2022年鑑賞邦画

【12月25日 記】 今年も残すところわずかで、多分もう劇場には行かないだろうから、毎年やっている「『キネマ旬報ベストテン』の20位以内に入ってほしい邦画10本」を選んでみた。今回で 17回目。

毎年書いているように、これは僕が選んだ今年のベストテンではない。純粋な評価とは微妙に違っていて、言うならば僕が応援する10本である。

また、決して「映画賞の上位に入るであろう邦画10本」ではない。客観的な予想ではなくて僕の思い入れの強さを表すものである。

あくまで他の映画賞ではなく「キネ旬の」、10位以内ではなく「20位以内に」、入るだろうではなく「入ってほしい」10本なのである。

今年観た邦画は、ネット上の特別試写会で観た『異端の純愛』を除いて 58本。『異端の純愛』を含めても良いのだが、この映画は来年劇場公開の予定らしいから、来年の選考対象とすることにした。

まず、例年通り本数を考えずに選んだら、次の 14本になった。

まず、この中で『大河への道』は、知らない監督さんだったこともあって全く期待せずに見に行ったのに滅法面白かった。となると、毎年選んでいる「掘り出しモノ賞」にぴったりだなと思って、今回は外すことにした。掘り出しモノ賞については後日アップしたい。

しかし、『大河の道』を外した結果、なんか同じような映画ばっかりが残ったような気もするが、まいっか。

ちなみに、この 14本を選ぶにあたっては『猫は逃げた』も念頭にあったのだが、今泉力哉監督と城定秀夫監督のコラボ作品を両方とも選ぶのはどうかと思い、『愛なのに』を残して『猫は逃げた』を外した。

そこから先は随分悩んだのであるが、結局下記 10本を残した。

  1. さがす
  2. ちょっと思い出しただけ
  3. 愛なのに
  4. 犬王
  5. 恋は光
  6. 神は見返りを求める
  7. マイ・ブロークン・マリコ
  8. いつか、いつも……いつまでも。
  9. 窓辺にて
  10. 夜、鳥たちが啼く

毎年書いているように、これは僕が観た順番に並んでいる。この 10本に序列をつけることはしていない。

いつもは同じ監督の作品を2つ以上選ばないようにしているのだが、今年に限っては城定秀夫が2本入ってしまった。

3)は今泉力哉脚本で城定秀夫監督、『猫は逃げた』は城定秀夫脚本で今泉力哉監督(クレジット上は両作とも共同脚本になっている)だったのだが、僕は今泉力哉監督の大ファンで、監督より脚本を担当したこの作品のほうが今泉らしさが出ていたという点でこちらが気に入った。

その流れで今泉力哉監督作品の9)に先に触れると、こちらはもう圧倒的な今泉ワールド! この何とも言えないバツの悪い感じ! オリジナル脚本でよくまあこんなストーリーを書いたなあとただただ感嘆するばかりである。

いつもの超絶長回しもあり、それに耐えた稲垣吾郎、玉城ティナらの演技も素晴らしかった。

城定秀夫のもう1本、10)はこれで6回目の映画化となる佐藤泰志の小説が原作で、この作家の作品の映画化には全くハズレがない。そのうちの3本を担当した高田亮の脚本が今回も冴えている。

城定秀夫という人はキャリアも長く、すでにものすごい数の映画を撮っていて、現在もものすごいペースで撮り続けている監督だが、僕は昨年までは全く知らなかった存在だ。長らく知らなかったことを悔しく思うほどである。何が起こるというわけでもないのに、なんでこんなに余韻の深い物語を作れるんだろう。

残りの7本については観た順番に書いて行くと、1)は『岬の兄妹』の片山慎三監督。あれもやりきれない映画だったが、これもまたやりきれない、ひどい映画である(笑)佐藤二朗のどうしようもない父親と伊東蒼の気丈な娘のやりとりが面白いと言うか、えーかげんにせーよと言うか…。

とんでもない人たちの話でありながら決して突き放していない描写が絶妙な映画だった。

2)は松居大悟監督。僕が伊藤沙莉が売れる前から彼女のファンだということもあるが、今作のこの伊藤沙莉もまた捨てがたい。そして、これだけ2ショットばっかりの映画でありながらこれほどまでに面白いのはやはり脚本の面白さなのだと思った。

恋愛の初めも、途中も、終わりも、僕らはいつもこんな感じなのだ。心が洗われた。

4)は唯一選んだアニメ作品。湯浅政明監督、野木亜紀子脚本。やっぱり手練のプロ2人が組むと面白い。

この個性的な絵柄と独創的な構図には度肝を抜かれた。琵琶法師の物語なので歌うシーンが多いが、先に音楽を録音してそれに合わせてあるのでリップシンクは完璧である。素晴らしい芸術作品だった。

5)は小林啓一監督・脚本。内心「まあ、これは選ばれないだろうな」とは思いながら選んだのだが、僕のお気に入り作品である。どこの学校にも一人ぐらいはいる変な奴に焦点を当てた恋愛ドラマであり、会話劇である。

人間に対する優しさが満ち溢れた映画で、僕も変な奴の端くれとして(笑)ものすごく救われた気になった。西野七瀬の演技が素晴らしかった。

6)は久々に吉田恵輔監督らしい悪意に満ちた映画(笑) 岸井ゆきの、ムロツヨシ、若葉竜也らダメ人間ばかり出てきて、とんでもない展開になる。まことにもって吉田恵輔は油断がならない。

人間の醜いところ、弱いところを抉り出すように描いているので、じゃあ読後感の悪い映画かと言うと、全く逆である。めっちゃ深いよ、この映画! グサッと心に刺さった。

7)は大ヒット漫画が原作だが、これまた久々にタナダユキ監督らしい強烈な作品。向井康介との共同脚本である。おぞましいけれど目を背けられない何かがある。そこがタナダユキなのである。

救われないマリコ(奈緒)、マリコを救おうとしてやっぱり救えず、自分もまた救われないシィちゃん(永野芽郁)、そこにふらっと現れて救うような救わないようなマキオ(窪田正孝)──この3人の演技が絶品だった。

最後の8)は、これもまた賞レースでは弱いのだろうが、僕は推したい映画。久しぶりに見た長崎俊一監督。矢沢由美のオリジナル脚本。突拍子もないようでありながら、しっかりと地に足がついた良い作品だったと思う。

改めて書くまでもないが、僕はちょっと変な奴を肯定的に描いた映画が大好きだ。この映画も高杉真宙と関水渚のちょっと変わった2人が繰り広げる変な恋愛劇。そしてもう一人、おせっかいなおばさんを演じた芹川藍が本当に素晴らしかった。

さて、このうちの何本がキネ旬の 20位以内に選ばれるだろうか? 結果が発表されたら(恐らく2月上旬だと思うが)また総括記事を書こうと思う。

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