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Sunday, November 06, 2022

映画『窓辺にて』

【11月6日 記】 映画『窓辺にて』を観てきた。この映画の予告編は映画館で観た記憶がなく、従ってどんな映画なのか全く知らないまま、ただただ今泉力哉作品だというだけで観に行った。

すごかった。圧巻の今泉力哉ワールド!

いつもの会話劇、恋愛ドラマ、いつもの固定カメラの長回したっぷりなのではあるが、このはっきりしない感じ、このバツの悪さ、このアンチテーゼ感。よくまあこんな脚本を書いたものだ(今回はちょっとネタバレになっているかもしれないので、気になる人は読まないでねw)。

観ていて思ったのは、これがもし原作のないオリジナル脚本だったらすごい!ということ。だって、作中作の小説(玉城ティナが扮する 17歳の作家・久保留亜の作品)が、本当に文学賞受賞作品っぽい出来だったし…。

しかし、果たせるかな、これは今泉力哉監督のオリジナルだった。

フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)が久保留亜の受賞会見で、作品『ラ・フランス』における「手放す」ということの捉え方について質問し、留亜が逆質問するやり取りの面白さ。映画の最後に出てくる、恐らく『ラ・フランス』の最後の文章と思われる部分の余韻に溢れた表現。

ちなみに、これらの小説の内容は玉城ティナが登場する前に、玉城ティナの声で朗読される。僕は彼女が出ているとは知らずに観に行ったのだが、一声聞いてこれは彼女だと分かった。

そして、留亜の前作『田端駅周辺』から引用される「知らない人とタンデムすることよりも、心も体も解放される瞬間をあまり知らない」という一節と、その朗読をバックに、留亜の彼氏・優二(倉悠貴)のバイクの後ろに市川が乗せてもらって走る後ろ姿の映像とのマッチ感(設定自体はちぐはぐなのでおかしいのだが、しかし映像と音声が妙にマッチしてしまっているw)。

最初はズケズケと物を言う留亜に市川が翻弄される話かと思ったら、話の構造はもっと複雑だった。

市川は文学系の編集者・紗衣(中村ゆり)と結婚している。紗衣は、超売れっ子だが自分では最近は満足の行く作品が書けていないと感じている作家・荒川円(佐々木詩音)の担当だ。

そして、市川にはスポーツ(多分サッカー)選手の友人・マサ(若葉竜也)がいる。映画では描かれていないが恐らく最初は市川の取材対象だったのだろう。マサはゆきの(志田未来)と結婚しているが、モデルでタレントのなつ(穂志もえか)と浮気をしている。

留亜が自分の小説の登場人物のモデルとして紹介した2人のうちのひとりが優二で、もうひとりが彼女の伯父のカワナベ(斉藤陽一郎)だ。

これらの人たちが入り乱れて話は展開する。ネタバレになるので書かなかったがここにはもう一組、浮気カップルがいる。居心地の悪い会話が映画の中にたくさんある。そして、くすっと笑える台詞もところどころにある。

石津文子がパンフレットに「今泉作品は(中略)会話の面白さとその間合いの妙が魅力だが、あれだけ会話があっても、そこで語られなかったことに興味がある」と書いているが、まさにそのとおりだと思う。彼の脚本には余白がたっぷりあるのである。そして、そのことによってドラマは逆にリアルになるのである。

脚本がすばらしいのでどの役者の芝居も自然で、嘘がない。主人公は稲垣吾郎への当て書きらしいが、如何にも稲垣らしい役で、これは稲垣にしかできないだろうと思った。

そして、玉城ティナ。初主演の『私に××しなさい!』の時には単にモデル出身の可愛い女優だと思ったが、ここ数年の彼女の成長ぶりは著しい。

さらに、中村ゆりは『パッチギ!』の時から僕が大好きな女優。今回もその表情の移ろいは見事としか言いようがない。

常連の若葉竜也も、穂志もえかも、斉藤陽一郎も、志田未来も、倉悠貴も、みんな本当にいそうな人たちばかりで、本当に口にしそうなことばかりを喋っていた。

そして、長回しである。どのシーンがと言うのではなく、ありとあらゆる2人の会話シーンに固定の長回しが出てくる。

紗衣と荒川が浮気をしている(あら、書いちゃったw)部屋での動きの多い長回し(しかし、あの部屋にベッドが3台あったのはどういうこと?)。

市川がマサの家に相談に来たときには手前にマサ夫婦の子供を舐めて、その後ろで話をする3人を捉えている。

ストーリー上は子供の画は不要である。あるいは最初に子供を舐めてから3ショットに固定すれば良いのにずっと子供を入れ込んだまま話をする。その辺りの構図に、なんか家庭というものの安定性と、それとは裏腹の脆さを感じてしまったのは僕だけだろうか?

そして何よりもすごかったのは、終盤で市川が紗衣に荒川との関係のことを訊くリビングでの超絶長回し。バツの悪さ、意識のすれ違い…。妻のブラウスのボタン付けをしている市川の画から入ってくるのもちょっとすごいなと思った。

いろいろ書いているときりがない。よくこんな話を映画にしようと思ったな、と思う一方で、こういう映画を撮れるのは今泉力哉以外にないなあと強く思った。

これは歴史に残る名作である。

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