映画『ある男』での小籔千豊の役柄について
【11月23日 追記】 映画『ある男』で小籔千豊が演じていた役柄について書いてみたい。城戸(妻夫木聡)の同僚(恐らく事務所の共同経営者)であり弁護士の役である。
原作にこういう人物は出てきただろうか? 度々書いているように、僕は何を読んでもすぐに忘れてしまうので、小説の中にもしっかり出てきていたのかもしれない。しかし、ここまでくっきりとキャラが描かれてはいなかったのではないだろうか?
小籔が演じた中北は、彼が演じるに相応しい、ややちゃらんぽらんな男である。主人公の城戸は映画の中の台詞にもあるように「人権派の弁護士」であり、真面目な男として描かれている。
それに対して、裁判に勝った依頼人が「先生のおかげです」と菓子折りか何かを渡そうとしたときに、城戸は一旦軽く辞退の姿勢を見せるのだが、横から「ほな、ありがたくいただいておきます」と受け取ってしまうのが中北だ。
そんな風にして誰かにもらったり、城戸が出張先で買ってきたりしたお菓子などを、中北はちょっといじましく食べて、ちょっと無邪気に喜ぶ。そういう男である。
そして、失踪した本物の谷口大祐(仲野太賀)の元恋人の美涼(清野菜名)を城戸が連れてきた時には、既婚者の城戸に「デートか? べっぴんさんやなあ。心配せんでも俺は口が堅いから」などと言って、城戸を肘でつつく。そういう男である。
で、ポイントはそういう中北を城戸は拒絶しないし、ちっとも嫌がっていないということだ。「デートなんかじゃないよ」と笑いはするが、「やめてくれ」とか「少しはわきまえろ」みたいなことは言わない。自分とは全くタイプの違う人間ではあるが、それをしっかり受容しているのである。
中北に受け取らせたお菓子を結局自分も食べるような卑怯者である、みたいな捻じ曲がった捉え方をする人もいるかもしれないが(笑)、少なくともこのコンビは非常にうまく行っているのである。
そして、お互いに、ひょっとすると「自分もこういう男になれたらなあ」などと思っているのかもしれない、と僕は感じたのである。
だから、これが映画オリジナルの設定であるとしたら、見事にテーマに合った設定であり、さすがに向井康介、非常に巧い構成だなあ、とひとり感心していたのである。
僕の考えすぎかもしれない。しかし、優れた脚本家というものはこういう脇の固め方に実力を発揮するものだと僕は思っている。
Comments
チルドの551に素直に関心する男と、それを買ってきてやれる相棒でしたもんね。
Posted by: 今橋こんぶ | Friday, December 02, 2022 17:34