映画『いつか、いつも……いつまでも。』
【10月21日 記】 映画『いつか、いつも……いつまでも。』を観てきた。
僕はとりたてて長崎俊一監督のファンというわけではない。だから、劇場用映画デビュー作の『九月の冗談クラブバンド』を観てから 26年間も彼の作品を観なかった。ま、長崎監督が寡作だということもあるが…。
で、久しぶりに観たのが 2008年の『西の魔女が死んだ』で、一方で「あれ? 長崎俊一ってこんな映画を撮る人だっけ?」と思いながら、映画自体はとても良かった。今回は(僕の気持ちとしては)その延長上で観た。また 14年も空いちゃったが(笑)
で、観てみると、これは出色の出来である。とても良い作品だった。
海辺の街の診療所で働く医師の俊英(=トシ、高杉真宙)と、ひょんなことからそこに住みつくことになった亜子(関水渚)の話。そこには院長のじいさん(石橋蓮司)とお手伝いのきよさん(芹川藍)が同居している。
周りから「感情がない」と言われるくらいぶっきらぼうなトシと、強烈な利かん気の亜子が、最初は対立しながら、やがてはゆっくりとお互いに惹かれ合うというストーリーなのだが、問題は亜子がすでに「やけっぱちで」結婚してしまっているということだ。
高杉真宙の出演作品は、僕はこの作品を含めて 10本観ているのだが、最初の2本は割と小さな役で、3本目の『散歩する侵略者』でともかく度肝を抜かれた。その後も引き続き映画、テレビドラマ、そしてテレビのバラエティまで含めて活躍している。
関水渚をデビュー作の『町田くんの世界』で観たときには、なんだか広瀬すずのコピーみたいで、悪くないとは思ったけど、この娘は消えるだろうなと思ったのだが、どうしてどうして、その後も経験を積んで良い女優になったと思う。
今回のこの映画は『西の魔女が死んだ』の脚本も手掛けた矢沢由美のオリジナル脚本であるが、素晴らしい人物造形に驚かされた。そして、それは演じている俳優たちの演技の素晴らしさにも支えられたものだ。
喋りだしたら止まらなくて、ともかく他人の話を聞かずに自分の言いたいことばかりベラベラ喋って忙しく帰って行くトシの叔母(じいさんの娘でもある)を演じているのは、他ならぬ脚本家の彼女である。ただし、女優の時は「水島かおり」を名乗っている(そのことは今回はじめて知った)。
ああ、いるよな、こんな人。うるさくて、ちょっと迷惑で、でも明るくて基本楽しい人。また、それを呆れて見ている石橋蓮司扮するじいさんが、時々妙に落ち着いて全てを見透かしたようなことを言うのが面白い。
そして、何よりも素晴らしかったのがきよさんを演じた芹川藍で、何、この、上手いの!?とびっくりした。僕が観た映画では広瀬奈々子監督の『夜明け』に出ていたようだが記憶はない。調べたら劇団青い鳥の設立者で座付作者で演出家だった。舞台女優として賞もたくさん獲っている。むべなるかな。
この思い込みが強くてせっかちで世話好きで、でも最初は亜子に反感を懐いて睨みつけていたのが、だんだんと亜子の一番の味方になって行く様子を、芹川はもののみごとにリアルに演じきっていた。ああ、今年はこの人にどこかの最優秀助演女優賞を獲ってほしいなと思った。
特に大事件が起きるわけでもない中で微妙な心の変化を表現することになる高杉と関水の2人も、難しい役をとても巧く演じていたと思う。
この映画では「3か月後」みたいな文字テロップは出ない。その代わりに、たんぽぽの綿毛が飛ぶシーンのあとに山と青空と入道雲のシーンが現れるのである。そういう作り方が良いなあと思った。
しゃがんでいる亜子をトシが棒でつついて地面に転がしてしまうシーンとか、お互いにもっと言いたいことがある中で「カレーを作ったの」「うん、いい匂いだ」みたいな会話をさせるところとか、ああ、この台本、この台詞は逆立ちしても自分には書けないなと思った部分がたくさんある。
なんと言っても、とっても良い話なのである。おとぎ話のような良い話ではなく、地に足がついた良い話なのである。
そして、この気が強くてがさつな亜子の、人間としての本当の魅力をトシが次第に分かってしまう過程にものすごく共感した。そう、彼女は彼女の魅力を分かる男性と結ばれるべきなのである。
最後の恐らくドローンで撮った海岸沿いの自動車道の俯瞰なんかもとても良い画だった。
非常に満足度の高い映画。うん、長崎俊一監督、もうちょっとたくさん観てみようかな(笑)
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