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Thursday, September 08, 2022

映画『この子は邪悪』

【9月8日 記】 映画『この子は邪悪』を観てきた。

片岡翔という名前にはなんとなく聞き覚えがあったが、作品名まで出てこなかったので調べてみたら、僕は彼が脚本を担当した映画を3本観ていた。

『きいろいゾウ』は黒沢久子と、『町田くんの世界』は石井裕也との共同脚本で、どちらも素晴らしい映画だったけれど、共同脚本というものには実にいろいろな形態があるので、どこまで片岡翔が与って力あったのかは量り難い。だが、『ノイズ』は片岡翔の単独作品で、これは間違いなく良かった。

僕にとっては監督としての片岡翔は未知数ではあったとは言え、出演者も南沙良、大西流星、桜井ユキなど、ここのところテレビでおなじみの役者が多く、悪くないキャストだと思ったので観に行くことにした。

しかし、いざドラマが始まると、5年間も昏睡状態にあった母親(桜井ユキ)が突然目覚めて、そこまでは良いとして、その日に退院してきて普通に晩飯食っていたり、父親(玉木宏)が娘(南沙良)の背後から「顔色が悪いが」と話しかけるなど、脚本にちょっと綻びが見えて、あれれ?と思った。

しかし、考えてみればこの母親は最初から怪しい人物として措定されているわけで、まあ、それはそれで良いかと気を取り直して先を観た。

映画は純(大西流星)が近所の精神異常者たちの写真を撮ったりしているシーンから始まる。そして、純の母親も明らかに同じような症状を呈している。

一方、近隣に住んでいる花(南沙良)は謂れのない罪悪感を覚え苦しんでいる。それは彼女たち4人家族が交通事故に遭い、母親は植物人間になり、妹は顔にひどい火傷を負い、父親は足に障害が残ったのに対し、自分ひとりだけが無傷で生き延びたからである。

そして、ある日突然意識を取り戻した花の母親が病院から戻ってくるのだが、彼女は母に何か違和感を覚える。そのタイミングで花と純が繋がり、心理療法士である彼女の父親や妹に関してもおかしなことに気づく──というようなストーリーである。

その謎が何なのか、そして、その後ストーリーはどう進み行くのか等についてはここには詳しく書かないが、うーん、どうなんだろう?ちょっと荒唐無稽な感じはした。

でも、まあ、これは TSUTAYA CREATOR'S PROGRAM FILM の準グランプを獲っちゃったもんだから、その脚本を映画化するしかなかったんだろうな、とちょっと同情したのだが、実はそうではなかったようだ。

原作では人間の記憶を人形に入れ込むという設定であったらしい。となると当然人形を動かすための大規模な特撮や CG が必要となるのだが、予算的な問題もあって、これを人形が出て来ない設定に書き換えたのだそうだ(応募したのは他ならぬ片岡翔で、彼自身が商業映画として成り立つかどうか不安を持っていたようだ)。

でも、人間の魂を人形に入れ込むという設定であれば、設定自体に現実感は薄いのだが、でも物語としてはオカルトものとして充分成立し得るのではないかと思う。これを心理療法士が心を操るという設定にしてしまったものだから、逆に作り物感が溢れる映画になってしまったような気もする。

片岡翔はこれが4本目の監督作品らしいが、廊下を歩く花を時々障子で遮って見えなくしたり、オレンジがかったソフトの逆光の中で芝居をさせたり、とんでもない長回しがあったりして、いろいろやってる感はたっぷりあった。

ただ、どうなんだろう? 僕は南沙良も大西流星ももっと上手い役者だと思うし、もっと雰囲気の出せる役者だと思っていて、今回は少し紋切型のような気がした。

最後の“オチ”についても、これを深読みする人たちもいるようだが僕は単に監督がちょっと遊んでみただけ、みたいな受け取り方をした。

いろんな試みはやっているのだけれど、今回の作品は企画の運び方がちょっとしんどかった気がする。

TSUTAYA CREATOR'S PROGRAM FILM の審査員って TSUTAYA の店員さんも結構多く入っているみたいで、あまり映像化の実現可能性を斟酌できない人も多かったのではないかな(そもそも制作費は5000万円しかないし)。

この作品を以て片岡監督にダメ出しする気はないが、ちょっと残念ではある。

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