映画『夏へのトンネル、さよならの出口』
【9月20日 記】 映画『夏へのトンネル、さよならの出口』を観てきた。
僕は大体において監督で映画を選んでいるから、アニメについては自分があまり詳しくないので結構良い作品を見逃しているのではないかと思う。アニメを観ないわけではないのだが、監督についてはかなりの大御所しか名前を憶えていない。
そういうわけで、この作品の監督・脚本を務めた田口智久のことは全く知らなかったし、制作を担当した CLAP というプロダクションも初耳だった。マッドハウス出身の人が作った会社のようだ。
だからこの映画は全くのノーマークだったのだが、知人が褒めていたので観てみようと思った。
主人公の塔野カオル(CV:鈴鹿央士)が暮らす片田舎の町・香崎にウラシマトンネルの伝説がある。そこに行くと何でも欲しい物が手に入るがその代わりに100歳も年をとってしまう、というものだ。そのトンネルの入り口をカオルが見つけてしまう。
トンネルに入ってみて、カオルは死んだ妹・カレンのサンダル片方と、昔飼っていたインコを手に入れる。そして、本人はごく短い時間そこにいたつもりだったが、戻ってきたら1週間後だった。つまり100歳も年をとるというのは、トンネルの中では時間が早く流れているということだった。
そして、2度めにトンネルを訪れた時、カオルの跡をつけてきた(と思われる)転校生・花城あんず(CV:飯豊まりえ)に出くわして、2人はその謎を共有し、「共同戦線」を張ることにする。
光と影の描き方が巧いプロダクションだ。ウラシマトンネルの中の輝く紅葉。夏祭りの花火と、その花火を鮮やかに映す海面(実際にはあんなにはっきり映るはずがないのだが、ひとつの心象風景としてうまく機能している)。
人物への光の当て方も巧い。ある時は逆光のシルエットにして、ある時は顔の反面を影にする。トンネルの中での光線の具合も素敵だ。
それから水の動きにも上手に表情を出している。海面や、トンネルの入り口に溜まった水、水族館の水槽のような大きなものから喫茶店でのコップに入った水まで。
場面転換も巧い。振り返ったら群生する満開のひまわりとか、傘のアップ、手のアップ。
主演の2人に声優ではなく2人の俳優を当てたのも大正解。声優独特の変な癖(声優学校ではそんな風に教えるのかな、と思ってしまう。とにかく皆同じリアクションになるのだ)がなく、生身の人間感が出ている。特に鈴鹿のちょっと体温低めのトーンが良い。
冒頭の、雨の駅でのカオルとあんずの出会いから始めて、カオルのクラスへのあんずの転校、あんずと他の女生徒との揉めごとなどを挟んだあとにカオルとあんずの「共同戦線」を持ってきて、その間にカオルとあんずの家庭環境と過去のできごとを挟み、中盤と終盤にもう1回ずつ駅のシーンを入れ込むなど、構成は抜群に巧い。
カオルと、彼女と揉めた女生徒との和解を、少し離れたところにいたカオルの視点で、無言のシーンとして描いたのも非常に良かった。
原作は八目迷という人のラノベらしい。ただ、このタイトルはあまり巧くないな(笑)
何度か描かれていた2機の飛行機雲が、最初の2つのシーンでは並行していたのが、最後のシーンではそれが交差するような形になっていたのはとても象徴的だった。
そして、主題歌・挿入歌の eill がこれまた抜群に良い。
良いアニメだった。平面アニメと CG のバランスが抜群だと思った。
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