『日本人の英文法』(T・D・ミントン)書評
【8月16日 記】 高校で習って以来、さすがに英文法の知識もかなり薄れてきたなあと思って選んだ本。著者はケンブリッジ大学卒業で、現在は慶應義塾大学の教授。
如何にも何ごとにおいても厳格なイギリス紳士が書いたという感じの本で、かなり理屈っぽい。そういうのに嫌悪感を覚える人にはお勧めしないが、僕は嫌いではない。
で、学校を出てから何十年も経つと、その間にネイティブが使っている英語自体も多少は変わってくるだろうし、当時日本の教科書に書かれていたことが間違いだったてなことも発覚するだろう。
しかし、一番の問題は、卒業してしまうと、もう誰もそんなことを教えてくれないということだ。今回この本を読んで非常に驚いたことが2つある。
ひとつは、
(A) Bill is shorter than me.
(B) Bill is shorter than I.
という2つの表現のうち、(B) はほとんど使われないということ。
え、そんなはずはない。shorter than I am の省略形だから (B) でなければならないと学校では教わったが。現代口語英語ではほとんど常に直接目的格が来るとのこと。これは as ~ as の後でも同じで、Bill isn't as tall as me. となるのだそうだ。
しかし、となると、(こういうのは日本の文法教科書が喜々として取り上げる比較例なのだが、)
(A) I like you better than her. (私は彼女より君のほうが好きだ)
(B) I like you better than she. (彼女より私のほうが君が好きだ)
の区別はどうするんだ? どっちも than her になってしまって区別がつかないじゃないか? ということになるが、著者によるとこういうのは単なる頭の体操みたいなものであって、実際には (B) はやはり全く使われない表現であり、こういうケースでは省略せずに、 I like you better than she does. と言うのだそうだ(笑)
それからもうひとつは、僕らは学校では「2人のときは each other、3人以上の場合は one another」と教わったが、現代英語では3人以上であっても each other を使い、one another はめったに使われないとのこと。
これも、えー、早く言ってよ!という感じの例だった。
もちろん、こういう目からウロコの例もたくさん載っているのだが、かと言って全部が全部そうではなく、ま、とは言え読む人によってその辺りはかなり違うだろうけれど、僕の場合は「いやいや、そんなことは言われなくてもさすがに間違いませんよ」みたいなことも書いてある。
しかし、そういう場合でも、「なるほどその表現はこの表現と対比するべきものなのか!」「なるほど、そういう理屈だったのか」みたいなことがかなりあって、だから読んでいてめちゃくちゃ面白い。
最初のほうに出てくる「決定詞」という、聞いたこともない品詞分類や、will と be going to と現在進行形の使い分けなどは説明が面妖で、かなり難しい。だが、そこそこ腑に落ちてくる。
あと、日本人が英作文するとついつい we を主語にしてしまうところで英米人は you を主語にするのだということはおぼろげに分かってはいたが、この本では(わざわざ項目を立てて書いてはいないが)、
「人々全般」を表す you は、話し手とその他すべての人を含む
と明確に書いてあって、なるほどそうだったのか!と思う。we を使ってしまうと、「we はそうだけれど、they はそうではない」という含みを残してしまうのだそうだ。
この辺はなかなか明快で、読んでいて嬉しくなる。
この本には続編が何冊かあるようだが、それも読んでみようかという気にさせる、実用的かつ面白い読み物だった。
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