映画『サバカン SABAKAN』
【8月24日 記】 映画『サバカン SABAKAN』を観てきた。知らない監督だったし、予告編を見てもそれほどそそられなかったのであまり観る気はなかったのだけれど、4人の知人が観て4人ともが褒めていたので急に観たくなった。
2人の小学生の夏休みの話。語り部はそのうちの一人、大人になって物書きをしている久田(草彅剛)。
とりとめもない話だ。と言うか、2人の行動があまりに脈略がない。イルカが来ているから見に行こうと、それまで別に親しくもなかった同級生の竹本(原田琥之佑)に半ば脅されるように誘われて、久田(番家一路)は朝の5時に自転車の2人乗りで家を出発し、山を越え、海を泳いで渡って小さな島に着く。無茶苦茶な行程だ。
でも、自分の少年時代もこんな風に脈略のない行動をしていたことを突然思い出してしまった。
僕は豊中市に住んでいたのだが、「今日はパンアメが来てるから」とみんなで伊丹空港まで飛行機を見に行った記憶がある。パンアメとはパンアメリカン航空のことで、当時は日本未就航だった。今ではみんなパンナムと略すが、僕ら小学生は英語がリエゾンするなんてことは全く知らなかったから、勝手にパンアメと呼んでいた。
みんなで脈略もなく歩いていたら、園田の競馬場に着いてしまって、土手の上からしばし競馬を見ていたこともある。
この映画の中でも、竹本が内田のじじい(岩松了)の畑からみかんを盗んで追っかけられるシーンがあるが、僕らもある日山道を歩いていたら、筍掘りをしている人たちがいて、勝手に参加して取っていたら、「何してんの、あんたら! これあげるから帰り!」と筍の小さな切れっ端を投げつけられたことがあった。
この映画を観ていると、そんなことを順番に思い出してしまうのだ。
僕の少年期とは 20年ほどの開きがあるはずなのに、大阪同士の比較ではなく大阪と 20年後の長崎だからなのかもしれないが、共通なものがたくさんある。だからノスタルジーがある。
そして、生まれて初めて貧富の差というものを実感したのも小学生時代だった。
この映画では子だくさんの母子家庭でボロボロの家に住んでいて、年中ランニングシャツで学校に通っている竹本が級友たちのからかいの的になっていたが、僕も同級生の松本くんの家に行って、「この家は二間で終わりなのか! あの壁の向こうはもう隣の家なのか」と驚いたことがある。松本くんとは特に親しくもなかったのに、何故突然家に呼ばれたのかはいまだに謎だ。
久田もどうして竹本に誘われたのかが分からない。しかし、それは終盤の竹本の台詞で説明される(ここには書かないでおく)。
とにかく、そんな具合で、2人の少年の、本当にとりとめもない生活が淡々と描かれる。いや、とても陳腐な表現だが、まさに瑞々しく描かれているのである。
画がまた素晴らしい。
冒険に出かける少年たちにいろいろ気遣ってやったのちに、「お母ちゃんが起きてこんうちに早う行け!」と言って、彼らの自転車を父親が押してやるところを、家の前の少し下り坂になっているところから切り取った正面の画。
冒険から久田の家に戻ってきた2人が「またね」「またね」と言い合って別れるシーンでは、最初は久田と竹本を切り返し切り返しワンショットで追い、途中からは久田だけをカメラで捉えて、少しずつ遠ざかって行く竹本の声が小さくなる。良い演出だった。
故郷に戻った久田が駅のベンチをしばし見つめてからゆっくりと座った、あの間もすごく良かった。
両親に扮した尾野真知子と竹原ピストルの、どつき漫才みたいな夫婦のやり取りも楽しく、そして暖かかった。岩松了もただのじじいではなかった。
そして、島で溺れそうになった久田を救った由香を演じていたのは茅島みずきだ。この子はテレビドラマ『教祖の娘』の主役をやっていた子で、声が独特なのですぐに分かった。とても存在感のある若き女優である。
物語はとてもうまく作られていた。このドラマのタイトルは必然的に『サバカン』になるだろう。エピローグも良かった。BGM だけはちょっと仰々しかったけど。
監督・脚本は金沢知樹という人(脚本は萩森淳と共同)。『半沢直樹』の脚本を手がけていた人だそうだ。名前を憶えておこう。
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