映画『アキラとあきら』
【8月27日 記】 映画『アキラとあきら』を観てきた。
池井戸潤の本は1冊も読んだことがないが、彼の小説が原作となったドラマや映画は、『半沢直樹』や『七つの会議』をはじめとして、そこそこ観ている。
今回の作品は、山崎瑛(竹内涼真)と階堂彬(横浜流星)というタイプの違う銀行員(前者は潰れた町工場の息子、後者は同族経営の大会社の御曹司)が、入行直後からライバルとしてしのぎを削る話である。
どれも同じだなどと書くと池井戸ファンは怒るだろうが、しかし、ま、僕からするとどれもこれも同じ構造なのである。耐えて耐えて最後に一発逆転する。──日本に古くからある、例えば忠臣蔵みたいな、あるいは高倉健のヤクザ映画みたいな世界だ。
そして、ヤクザ映画で言えば極悪非道の組長みたいな役柄がユースケ・サンタマリアと児嶋一哉が演じた彬の叔父2人であり、その悪役に取り込まれてしまう獅子身中の虫が、彬の弟の龍馬(高橋海人)である。
でも今回の特徴は、悪役退治ではなく、アキラとあきらの友情ががっちりと確立するところを集結点に持ってきているというところだ。
原作ではアキラとあきらは仲が良くて対立構造はないのだそうだ。映画では、相手のやり方にお互いに相容れないものを感じて対抗意識を持つ2人という設定にしたのは大正解だったと思う。池田奈津子の脚本も大変良かった。
三木孝浩という監督は青春恋愛ものが得意な人だ。この作品は新機軸と言えるのではないかな。僕は彼の長編18本のうち17本を観ていて、だめだこりゃと思ったのは『ホットロード』だけで、あとはどの作品も大好きである。
しかし、こういう題材となるといつもの青春恋愛もののようにキラキラした映像は撮りにくく、概ね会話劇になってしまう。にも関わらず、やっぱり良い画はたくさんあったように思う。ラストシーンなんかはその典型だ。
僕が面白いなと思ったのは、「俺たちを上から目線で見ている」と叔父たちが彬を睨みつけたり怒鳴りつけたりするシーンを、叔父たちを立ち上がらせたり、彬に土下座をさせたりすることによって、逆に叔父たちから彬への上から目線の構図で撮影していたところだ。
出演者では、竹内涼真は如何にもな味を出しており、横浜流星も非常に上手い役者だが、兄へのコンプレックスをこじらせてしまう龍馬を演じた高橋海人がとても良かったと思う。
また、瑛の後輩として中盤から水島カンナ(上白石萌音)という行員が登場するのだが、こういう人物設定が非常に効いている。大きなストーリーの進行には不必要なキャラだが、しっかりとドラマの味付けになっている。
そして、2度にわたって瑛の直属の上司となる不動(江口洋介)も、銀行の中での悪役としてしっかり機能している。名字からして憎たらしいではないか(笑)
あと、地方の支店に飛ばされても変わらずに熱血ぶりを発揮する瑛を、半ば諦めながら優しく見守っていた先輩行員の水橋研二や、瑛が担当する中小企業の社長の宇野祥平など、キャストはいずれも非常に良かったと思う。
しかし、池井戸潤という人はカタルシスを作り上げる裏で、元々銀行員だった自分の、銀行(員)に対する呪詛を述べているような気もする。考え過ぎだろうか(笑)
いずれにしてもカタルシスはたっぷり味わえる。良い娯楽作品だった。
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