« 名前考 | Main | 『ミーツ・ザ・ワールド』金原ひとみ(書評) »

Wednesday, August 10, 2022

It never rains in California

【8月10日 記】 アルバート・ハモンドの『カリフォルニアの青い空』という歌がある。1972年のヒット曲だ。

1972年と言えば僕は中学3年生だったから、当時の自分の英語力ではこの歌の詞は充分に理解できなかった。

当時思ったのは It never rains in Southern California というタイトルの曲に『カリフォルニアの青い空』という邦題をつけたのはとても巧いなということ。

それから、これはあくまで歌の世界であって本当にそんなことはないのだろうけれど、もし本当にカリフォルニアでそんなに雨が降らないのなら日常生活用水はどうやって調達しているのだろうか、ということだった。

中学生の頭で考えられるのはその程度だろう。

それから何十年、この歌は大ヒットだったし、僕もとても好きな歌だったので、その後も折に触れて耳にする機会はあったのだが、最近改めて歌詞をじっくり読んでみて、いろんなことに気づき、あの当時自分が全く詞を理解せずに聴いていたということが分かって愕然とした。

長調のペンタトニック・スケールだけで構成された、この一見明るい曲はなんと物悲しい歌だったんだろう。この歌を聴きながらカラッと晴れた青空を想像していた僕はバカだった。

まず、冒頭の歌詞だが、

Got on board a westbound 747

を当時「西行きの 7:47発の飛行機に乗った」としている訳詞を読んで、僕は「なんだ、てっきりジャンボジェット(ボーイング747)のことかと思ったが、時刻だったのか」と思ったのだが、どうやらこの訳詞は間違っていたようだ。訳者はよほど飛行機について無知な人だったんだろう。

で、サビの部分の歌詞だが、当時僕は自分がかろうじて聞き取れた

It never rains in California

だけをこの歌の世界観として捉えていたのであるが、その後に

It pours, man, it pours

と続いているではないか!

当時何故これが聞き取れなかったかと言うと、まずはこの man が知らない単語、と言うか、知っている単語の知らない用法だったからだろう。こういう間投詞的な、単なる呼びかけとしての man とか dude とかは日本人には却々難しかったりするのだ。

で、この表現は明らかに It never rains but it pours という諺と言うか、定型句を踏まえている。多分中学時代の僕はまだこの定型句を知らなかったのだろうと思うが、これは通常「降れば土砂降り」と訳される。

(めったに雨は降らないんだけれど)降るとなったら土砂降りになる、つまり、不幸なことはいっぺんに重なって起こるということである。

歌詞をじっくり読んでみると、主人公は映画やテレビでの成功を夢見てカリフォルニアに出てきた。

Rang true, sure, rang true

とあるように、「あそこに行けばなんとなかなる」みたいな話がもっともらしく聞こえたのである。

ところが仕事はないし、精神的にもボロボロになって、ああ、もう田舎に帰りたい、みたいな歌だったのである。

そして、サビの部分、

It never rains in California, but girl, don't they warn ya

の後半部分に関して言えば、当時はこの girl も 上記の man と同じような事情でちゃんと聞き取れていなかったし、don't they warn you ではなく don't they warn ya になっていたためにこちらも聞き取れていなかった。

しかし、今ごろになってはたと気づいたのだが、you をわざわざ ya にしているのは、California と warn ya で脚韻を踏むためだったのである。

脚韻(end rhyme)というのは、あまり詳しくない人のために書くと、アクセントのある音節の母音以降が全く同じ音であって、しかもその音節冒頭の子音は異なるというものである。

カリフォルニアのアクセントはフォにあるので、ここでは -fornia と warn ya で半ば強引に韻を踏んでいるのである。これが you のままだったら脚韻は成立しない。

てなことを発売50年目にしてやっと理解して、この物悲しい歌がなおさら好きになってしまった。

|

« 名前考 | Main | 『ミーツ・ザ・ワールド』金原ひとみ(書評) »

Comments

その2年後、会社の研修出張というおいしい企画があってひと月LA周辺に滞在したのですが、テレビニュースの「天気予報パフォーマンス」でのはしゃぎぶりに驚きました。見事に「晴れは善、曇/雨は悪」という原則だけが語られる天気予報には疲れました。それ以前から、南カリフォルニア州での晴天へのこだわりは、全米から馬鹿にされていたと思います。1964-65の、隣州のオレゴンでは聞いたことのないこだわりぶりでした。

Posted by: hikomal | Wednesday, August 10, 2022 21:06

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« 名前考 | Main | 『ミーツ・ザ・ワールド』金原ひとみ(書評) »