映画『ベイビー・ブローカー』
【7月2日 記】 映画『ベイビー・ブローカー』を観てきた。
しかし、今回の映画はちょっと難しいぞ。
いや、テーマや内容が難解だということではなく。いつもの是枝裕和監督の作品と比べて少し進み行きが分かりにくい気がする。途中で何度か(それぞれ一瞬だが)眠りに落ちてしまったこともあるが、ちょっともう一度見ないとはっきり分からない部分が残った。
とは言え、これは紛れもない是枝監督による、如何にも是枝監督らしい作品である。
『誰も知らない』や『そして父になる』、『万引き家族』にも通じる、家族とは何か、血縁とは何かを問う作品。見ようによっては板尾創路が空気人形とセックスをする『空気人形』も家族の話だったと言える。
考えてみれば是枝監督はずっとこのテーマで撮り続けているのかもしれない。
冒頭は雨の夜のシーン。ソヨン(イ・ジウン)がベイビー・ボックスに自分が産んだ赤ちゃんを捨てに行く。
後にドンス(カン・ドンウォン)とソヨンが雨の話になって、ドンスが「雨が降っているなら傘を持って迎えに行けば良い」という比喩を返すと、ソヨンは小さい頃に友だちが持っていた赤い傘が羨ましくて盗んで棄てたという実体験を話す。
そんな風にこの映画は随所で繋がって行く。
サヒョン(ソン・ガンホ)が観覧車の中で高所恐怖症の少年ヘジンに「ここで吐くなよ」と話しかける。その後のシーンでサヒョンは離婚して妻が引き取った娘に、昔一緒に遊園地に行って娘が吐きそうになった話をして、つれない反応をされたりする。
いや、ちょっと先走りすぎた。まずは最初のストーリーと設定を書いておこう。
ベイビー・ボックスのある病院でソヨンの息子ウソンを受け取ったのは病院の職員ではなく、そこの契約社員のドンスとクリーニング屋のサヒョンの2人組で、2人は実は赤ん坊を盗んで子供に恵まれない夫婦に売りつけるベイビー・ブローカーだった。
だが、翻意して病院に戻ってきたソヨンにその企みがバレてしまい、仕方なくブローカーの報酬で釣って彼女を仲間に引き入れ、赤ん坊を売りつける旅に彼女も同行させることとなる。
一方、ベイビー・ボックスの前で一部始終を見ていたのが、ブローカーを逮捕しようと張り込みをしていた刑事のスジン(ペ・ドゥナ)とイ(イ・ジュヨン)だ。サヒョンらが乗ったワンボックスカーをこの2人の車が追って、そこから先はロードムービーになる。
連日の張り込みで入浴も着替えもできないスジンは著述業の夫に「ボタンが取れたから着替えをもって来て」と電話する。一方クリーニング屋のサヒョンはソヨンの服の取れたボタンを縫い付けてやる。この辺でも繋がって、巧い対比を見せている。
前述した通り、こういう繋がりが随所に仕掛けてある。
是枝監督のオリジナル脚本だが、そういう作りは本当に巧い。そして、韓国の一流どころの役者を揃えただけあって、皆がそれぞれ違うものを抱えている様を非常に巧みに演じている。カメラも韓国の名匠ホン・ギョンピョで、良い表情を良い角度で切り取っている。
ただ、最初に書いたようにちょっと分かりにくい。必死で画面を追っていないと、大事なものを見落としてしまう感じ。そして、描き方が分かりにくくなっている一方で、テーマがあまりにもシンプルになっている気がしないでもない。
まあ、でも、だからと言って映画全体を悪し様に言ったりはしない。とても良い映画である。もう一度見直したら、評価はきっとさらに上がるだろうと思う。
Comments