映画『今夜、世界からこの恋が消えても』
【7月31日 記】 映画『今夜、世界からこの恋が消えても』を観てきた。
そんな病気が本当にあるのかどうか知らないが、一晩眠ると前日の記憶がきれいに消えてなくなるという、お涙頂戴恋愛映画を作るには非常に好都合な病気になってしまった女子高生の話。
監督が三木孝浩でなければ観ることはなかったと思う。加えて、脚本が月川翔と松本花奈という監督もする2人の合作となると、この3人の名前だけで逆に期待が膨らんだのも確かである。
僕が誤解していたのは、つきあっている2人のうちの女の子のほうがある日事故に遭ってそんな記憶障害になってしまうという話ではなかったということ。では、高校生が好きになった同級生の女の子が実はそんな記憶障害だったという話かと言うと、それも微妙に違う。
映画の冒頭で急ブレーキの音と眠っている真織(福本莉子)の睫毛のアップだけで事故を暗示し、真織が目覚ましを止めて起きるシーンになる。部屋の壁のあちこちに彼女自身が書いた「自分は記憶障害にかかっている」「まずは昨日の日記を読め」みたいな紙が貼ってある。
シーン変わって学校で、そんな彼女に透(道枝駿佑)が「つきあってください」と言うが、本当に好きだったわけではなく、いろいろ事情があってクラスメイトに脅されてのこと。何故か真織はそれをすんなりと受ける。どういう気持ですんなり OK したのかはここではまだ語られない。
改めて放課後に会った2人は、真織の提案で条件が3つついた「疑似恋人」となる。
そんな透に真織の親友・泉(古川琴音)がしつこく絡んでくる。何故なら、真織は自分が記憶障害になっていることを周囲に隠しており、泉は家族以外でそのことを知る唯一の人間であり、言わば学校での真織の庇護者であったからだ。
福本莉子は近年東宝が推している女優だが、僕は今イチ彼女の魅力が分からない。この映画でも、記憶がないという設定もあってそれほどの見せ場がなかったこともあるが、演技者としては若干物足りない感じもした。
一方、道枝駿佑のほうは線は細いが悪くない役者だと思う。やっぱりジャニーズ事務所というのはなんとなく男の子を見る目を持っている気がする。
そんな中でひときわ光っていたのは古川琴音である。2019年の映画『チワワちゃん』で初めて見たときから「この娘はいいぞ!」と思ったが、人気も実力も着実に伸びてきている。
この映画はむしろ古川琴音の映画であったと言っても良い。
と言うのは、この映画はよくある熱愛中の2人のうちのどちらかがある日死んでしまうという単純な悲劇ではないからだ。そこにはもうひとつ複雑な構造が乗っかっており、その複雑な構造の重荷をひとりで背負ってしまったのが古川が演じる泉だったからだ。
その古川琴音を観ていてまんまと泣かされてしまった。
そもそもは月川翔が撮影のスケジュールが立たないまま脚本を書いて、実際自分で撮るのは無理と判断して三木孝浩に託したらしい(松本花奈がどういう絡み方をしたのかは不明)。
まんまと泣かせる良い台詞もたっぷりあった。柔らかな光に包まれた2人の美しいシーンもたっぷりあった。他の共演者では透の姉を演じた松本穂香も良かった。
果たして透の父親(萩原聖人)のエピソードが必要だったのかな、と思ったり、あんな記憶障害だったらとてもじゃないけど高校を卒業できないだろう、と思ったり、まあ、難点はないでもなかったが、とっても良い映画だった。胸にジーンと来た。
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