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Tuesday, June 21, 2022

『新しい星』彩瀬まる(書評)

【6月21日 記】 連作短編×8=4人の登場人物が2回ずつ主人公になる。みんな何かを失い、問題を抱えている。

青子は生まれてすぐの娘を亡くした。玄也は上司に嫌われたのをきっかけに会社に行けなくなり、引きこもりになった。茅乃は乳がんの手術で乳房を失った。卓馬は出産のために感染症を避けて実家に帰った妻が帰ってこない。

4人は大学の合気道部の仲間だった。その4人が久しぶりに再会して、それからとても良い距離感で接する。

それぞれの問題はそう簡単に解決しない。それどころか、時間が経つに連れてもっと深みに嵌ってしまったり、新たな試練に襲われたりもする。

それぞれの家族や仕事仲間とのギクシャクした関係もある。でも、4人ともそれぞれができることをする。出過ぎたことはやらずにできることをやる。その辺りがとても気持ちが良い。

必ずしも心が晴れるような物語ではないかもしれない。でも、少しじんわりと温かみを感じられる物語なのだ。

その不思議な景色を、青子は遠い、よく晴れた日の水平線を前にした心地で眺めた。爽やかで、美しくて、さわれない。

うまい表現だ。この作品を通じて、そんな人生観が通奏低音となっている。

最後の『ぼくの銀河』の、ほんとにどうでも良いような終わり方が却って温かい。

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