『ヒット曲は発明だ!』羽島亨(書評)
【5月15日 記】 本屋でたまたま見つけて買った。こんな本が読みたかったのだ。2018年に発売されていたのに全く知らなかった。
著者はポニーキャニオンでさまざまな歌手のプロデューサーを務め多くのヒット曲を放ってきた人。
昭和歌謡ブームもあって、「ヒット曲の秘密を探る」みたいな本は結構出ている。が、僕にとってはどれもこれも食い足りない感じだった。
それらの多くは歌詞ばかりに注目して音楽面の考察が不足していたり、音楽的な構造に踏み込まずに単なる印象で語っていたり、とかく抽象的、あるいは部分的で、「○○っぽい」とか「○○の要素を取り込んだ」などの曖昧な表現が多かったりした。
それに対してこの本のありがたいのは、まず、取り上げている全曲の楽譜が載っていること。それも4小節や8小節ではなく、全曲の全スコアがコードネーム入りで記載されていることである。
第1部「1960年代」から始まって、10年ごとに第5部の「2000年代」までで23曲を扱っているのだが、単にそれぞれについて解説しているだけではなく、これらを読み進むことによって、作曲するための、あるいは楽曲を分析するための基本的な知識が身につく構造になっているのだ。
例えば HIT SONG 01 の『バラが咲いた』では AABA形式について解説し、HIT SONG 02 の『友よ』では3コード、HIT SONG 03 の『グッド・ナイト・ベイビー』では循環コードと代理コード、HIT SONG 04 の『上を向いて歩こう』ではサブドミナント・マイナーを取り上げている。
ここまで読んで、随分初歩的なことを解説しているなと思う人もいるだろうが、そこから分析は章を追うごとにどんどんレベルの高いところに踏む込んで行く。
僕が一番嬉しかったのは、HIT SONG 20 で安室奈美恵の『SWEET 19 BLUES』が取り上げられていたこと。1996年にこの曲が発売されたとき、僕はこの不思議なコード進行に魅せられて、どういう進行をしているのか確かめるために楽譜を買ったのだった。
一般に楽曲の分析を細かくやっている人は歌詞の分析がなおざりになりがちなのだが、この人は基本的にプロデューサーであり、また、自ら作編曲だけでなく作詞も手掛ける人なので、詞に対しても却々洞察力に富んだことを書いている。
そのバランスが嬉しい。
僕はずっとこういう本が読みたかったのだ。
何故こういう本はあまり出版されないのだろう?
一般の読者には全く楽器を弾けない人もいるわけで、あまり高等なことを書いても理解してもらえないだろう、という思い込みが出版社側にあるのかもしれない。
しかし、僕が思うには、全く楽器を弾かない人はいずれにしろ音楽の解説書なんて買わないんじゃないかな?
それよりも日夜「この歌はどうしてこんなに素晴らしいんだろう?」と驚嘆して、その秘密を探ろうと必死になっている僕のような人たちのために、どんどんこんな本を出してほしいと思うのである。
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