『新世代のビジネスはスマホの中から生まれる』天野彬(書評)
【5月2日 記】 電通メディアイノベーションラボ主催の「情報メディア白書セミナー」を受講したときの付録。いや、実際にはセミナー当日は発売前だったので、後日送られてきた本。
僕と天野さんは twitter で長年相互フォロー関係にあって、直接会ったことも何回かある。
本が届いてまずその厚さに驚いた。2cm5mm くらいある。ぎっしり活字が詰まった状態で 380ページぐらい。随分頑張って書いたなあ、と思った。
この大著を前にして、読み終わるまでに一体どれくらいの時間がかかるんだろうと不安になったが、幸いにして大事なところは全部青字で書いてある。青字の部分だけ読めば良いとは言わないが、青字に意識を集めながら読み進むと結構スピードは上げられる。
で、少し読み進んで2度びっくり。確かに天野さんは電通の社員と言うよりも学究肌の研究者という感じがあったが、この本は本格的な学術書ではないか! 大学の講義の教科書として使えそうな、網羅的で、かつ深掘りした内容。
メディア関係の古典や名著、有名な理論/定説などには全て当たった上で、統計調査やインタビューを重ね、独自の分析を加えてまとめ上げてある。
そうか、彼はずっとこういう俯瞰図を書きたかったんだろうな、きっと。
これまでにも、「『ググる』から『タグる』へ」、「消える、盛る、ライブ」など、キャッチーなまとめ方が巧い人だったが、ここでも彼らしい洞察による分類やネーミングを、これまでに発表されているマーケティング理論と絡めながら展開してある。
前半の6章は SNS 登場後のコミュニケーション環境のまとめ、そして、後半の6章は、ここのところ彼が集中して取り組んでいる TikTok の構造分析を中心に書き進められている。
- 我シェアする、ゆえに我あり
- SNSアカウント運用における3つの M
- SNS がもたらしたマーケティングのコペルニクス的転回
- 情報の広がり方の3モデル:マス型、インフルエンサー型、シミュラークル型
- 動画マーケティングの 3H と 3S
- TikTok の正体は Anti-Social Social Media
- AIDMA、AISAS に次ぐ ALSASモデル
全てが彼発案の理論や考察ではない。むしろこれまでの流れを非常に深く勉強して取り込んでいる。その上で現在のコミュニケーション環境、とりわけ TikTok の現状を深く深く掘り下げて、彼一流のまとめになっている。
いやあ、こんなこと言うと怒られるかもしれないけど、東大出の人って頭いいよね(笑) もちろん東大出たら誰にでもこんな本が書けるわけではないのだろうけれど、少なくともこの本を読んだらそう感じると思うよ。
読み物としても大変面白いものでした。特に TikTok については自分がよく知らない分野だけに、学ぶところが非常に多かったと思う。
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