『ハケンアニメ』完成披露上映会
【4月14日 記】 映画『ハケンアニメ』の完成披露上映会に行ってきた。舞台挨拶もあった。
僕は辻村深月の原作小説を知らなかったので、「派遣アニメ」とは何ぞや?と思ったのだが、そうではなくて「覇権アニメ」だった。
これは公務員から転職してきた新人アニメ監督・斉藤瞳(吉岡里帆)+敏腕プロデューサー行城(柄本佑)らのチームと、天才アニメ監督・王子(中村倫也)+「伝説の制作進行」から今は P に昇格した有科(尾野真千子)らのチームがアニメ界の覇権を争うドラマである。
辻村深月はもちろん綿密な取材をした上で原作を書いたのだろうし、監督もそれを忠実になぞったのだろうとは思うのだが、なんか細かいところをいっぱい単純化してしまったような気持ち悪さがあるのは否めない。
それは必ずしもアニメの制作現場という狭いところに限った話ではなく、仕事というものの進め方とか、あるいはもっと広く人間の意識の流れみたいなところまで及ぶのだが、所謂「胸熱ドラマ」にするためにいろんなものを捨象してしまったような感じが僕はした。
これは僕だけの感じ方なのかどうか、他の人にも訊いてみたい気がする。
しかし、最初にそういうことを書いた上で言うと、ドラマとしては成功だったのではないだろうか。
まず話が非常に上手に組み立てられている。登場人物のキャラクターも立っている。台詞も悪くない。画作りも巧みで卒がない。
吉岡里帆が疲れた顔で髪の毛振り乱して頑張る演技に好感が持てたし、中村倫也はいかにも彼らしい役柄で嵌っていたし、尾野真千子と柄本佑の芸達者は言うまでもない。
脇では、なんともいけ好かない制作デスクを演じた前野朋哉を筆頭に、古舘寛治、小野花梨、六角精児、新谷真弓らが非常に良い味を出して、機能的に回っていた。
吉野耕平という人は監督2作目らしいが、かなり構成力のある人だと思った。
ただ、惜しむらくは、史上最高のアニメ決戦という設定であるにもかからわず、劇中アニメが圧倒的な作画になっていないところだ。
いや、出来がひどいとは言わない。結構一流のスタッフも投入しているみたいだし、アニメ界からは声優役で本物のアイドル声優たちも動員している。
ただ、完成したアニメ動画は映画の中ではごく限られた分数しか流れないが、表裏の同じ放送枠で最高傑作同士が激突するというストーリーを展開するからには、少なくともその部分は眼を瞠るような、それこそ度肝を抜くような出来であってほしい。そうでないと説得力が出ないのである。
もちろんアニメ部分にそんなにお金をかけてしまうと実写のドラマの予算が足りなくなってしまうので、ないものねだりであることはよく分かって書いているのだが…。
基本的にアニメ的な印象のドラマなのだが、そこに出てくる監督が2人とも、自分の作品を絵空事にはしたくないと思っているところが非常に良かった。
だから、主人公の隣家の少年にも奇跡が起きたりはしない。この映画もまた後味の良い映画だった。今の時代はこういうのが受けるんだろうなという気がする。5/20 公開。
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