『異端の純愛』オンライン試写会
【4月30日 記】 『異端の純愛』(井口昇監督・脚本)のオンライン試写会を観た。
昨夜18:30から、クラウド・ファンディング支援者限定で、舞台挨拶と合わせて生配信があったのだが、僕は今日アーカイブ配信で観た。もちろん僕も支援者のひとりである。
上映前に舞台挨拶があった。
8人の出演者(八代みなせ、中村有沙、山本愛莉、中村優一、岡田佳大、大野大輔、井上智春、九羽紅緒)が登壇するという、映画館での舞台挨拶ではあり得ない賑わいである。
そして井口昇監督自らが司会者を務めた。あの大きなお腹を揺らせて、大きな顔をくしゃくしゃにして、短い手足をバタバタしながら、嬉しさのあまり声を裏返しながら進行していた。
これが約30分。さらに上映終了後にはほぼ同じメンバー(都合で2人抜けたが)による座談会が延々続いた。そして、配信の最初から、上映中を含んで、最後まで、観客はチャット欄にコメントを書き続けた。合計3時間半超の大イベントであった。
かなり極端に振った映画だ。見終わったらだれもがどんよりする作品だと思う。でも、初めて観たときに泣いたと言う出演者がいた。上映の後も泣いている出演者が何人かいた。
タイトルが井口昇の全てを語っていると思う。異端と純愛──この2つが井口昇の中で両立するのである。いや、両立するだけではなく、この2つが井口昇のメインの要素の2つなのである。
3話構成のオムニバスである。
第1話は『うずく影』。ほとんど台詞がない。
哲也(大野大輔)と由美(山本愛莉)はマンションの一室みたいなところで向かい合わせで PC作業をしている。哲也は明らかに由美に気がある。だが、それをうまく形にできない。由美はそれを気味悪く思っている。
──その辺の状況が、ほとんど台詞なく、映像で語られる。そして、その後、ひとことで言ってしまうと、倒錯的な映像になる。それが白日夢なのか事実なのかは分からない。
第2話は『片腕の花』。井口監督の初期の名作と言われる『片腕マシンガール』(2008年、残念ながら僕は観ていない)主演の八代みなせが、同じ役名アミで、ここでも片腕の女として出演している。
高校生の小出裕輔(岡田佳大)は2人の女子高生の不良にいたぶられているが、人を傷つけるのが怖くて、されるがままになっている。喫茶店で知り合った片腕の女・アミが、そんな裕輔に人を傷つけることの快感を教えようとけしかける。
しかし、これもどこまでが現実でどこまでが妄想なのか、区別がつきにくい。
不良に切りつけようとして自分の太ももを刺してしまった裕輔にアミが言う。「実際に人を傷つけるのは簡単じゃない。肉は固くて切りにくいし」云々…。
第3話は『バタイユの食卓』。二瓶烈(九羽紅緒、女優が男の子役をやっている)は小さい頃から排泄と、それに繋がる食事をおぞましいものと思っている。珠子(中村有沙)は自分が便ではなく気持ちの悪い虫を排泄していることに気づく。
その2人が知り合い、2人の複雑な感情が絡み合った後、一緒に暮らすようになる。やがて至高の愛を目指す2人は次から次へと極端な行為に及ぶ。
この第3話が一番色濃いが、第1話から明らかに谷崎潤一郎を意識したところがある。しかし、耽美派の文豪・谷崎よりも遥かにポップでギークで、かつ下世話でお下劣である。ただ、美しいところは同じである。撮影は松原晃平。
このオムニバスは3話を通じて食事のシーンが多い。人間の基本欲求のひとつである食欲を捉えて、そこから人間の本質に迫るようなところがある。
終わってからの座談会で言っていたが、井口昇は高校ぐらいまで拒食症で、体重はなんと30キロ台だったらしい。それを聞くとなおさらこの映画の意味の深さが伝わってくる。
「愛にはいろんな形がある」と何人かの出演者が口を揃えて語っていた。そう、それがメインテーマである。そして、第3話の二瓶の台詞「僕たちは2人ともどっかおかしいけど、でも異常ではないと思います」が多くを語っている。
「どっかおかしい」も「異常」も同じようなものだが、受け取る側の拒否感が違うのである。
この映画は、しかし、井口ファンのこのような盛り上がりとは一線を画して、多くの人からは評価されず、むしろ拒否され、あるいはバカにされて終わるかもしれない。
別に良いではないか。僕はやはりこれが井口昇の真骨頂だと思うし、この映画がある種の集大成だとも思う(代表作を一つだけ挙げるとしたら『惡の華』だとは思うが)。
微力ながら支援させてもらったことを心から誇りに思っている。
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