note: エンタメ小説家の失敗学
【3月11日 記】 前に書いた「ロマンポルノ無能助監督日記」(金子修介監督)以来久しぶりに note の連載記事をフォローして読んでいる。
それは「エンタメ小説家の失敗学 by平山瑞穂」である。
僕がこの作家を初めて読んだのは『有村ちさとによると世界は』だった(と言うか、全部で3冊しか読んでいないのだが)。
このタイトルを見て、ピンと来る人は来ると思うのだが、これはジョン・アーヴィングの『ガープの世界』を踏まえたタイトルである。ご存じない方のために書いておくと、『ガープの世界』の原題は The World According to Garp なのである。
そして、作中には In the world according to Garp, というフレーズが何度か出てくる。
そこまで知っていると、この平山瑞穂という作家が、少なくとも『ガープの世界』が好きなんだろうなということは容易に想像がつく。
それで僕はこの『有村ちさと』に飛びついて読んだ。とても面白かった。それで、てっきりこの人は純文学系の作家だと思っていたのだが、その後2冊を読んでみたら、どうもそうではない。
あれっ?と思って調べると、この人のデビューは2004年に第16回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した『ラス・マンチャス通信』という小説だったのだ。僕はその辺のことを全く知らずに、その系譜からはちょっと外れた『有村ちさとによると世界は』を読んで、大いなる感銘を受けたというわけだ。
で、今回の note の連載で知ったのだが、この平山瑞穂が近年、作家として食えない状態になっているのだそうだ。
平山はそのことを非常に淡々と書いている。嘆くのでも愚痴るのでもなく、まだ連載が始まったばかりなので断定はできないが、多分、なんでそんなことになってしまったのかを冷静に分析し、現在のそういう事情や環境をを世間に知ってもらおうとしている。
面白い、と言うと失礼かもしれない。でも、一般的には受賞歴のある作家がこんなことは決して書かない。それを虚心坦懐に語る姿勢が面白く、書かれている内容も興味深い。
特に昨日公開された第3回において、平山はそもそも自分は純文学の作家を目指していたのだと書いている。やっぱりそうだったのだ。
そして、「この最初の一歩からしてまちがえていたのではないか」と書いている。「少なくとも、作家デビューを果たすこの入口の陰に身を潜めていたミスマッチが、のちのちまで禍根を残すことになったのではないかと思えてならないのだ」と。
俄然面白くなってきた。
何をどう間違えたのかまだ分からないが、しかし、この人に純文学的志向があったのは確かで、『有村ちさと』を読んだ者としては、その素養は充分にある作家だと思うし、もっと書いてほしいと思う。
しばらく読み続けることになる。そして、多くの人がこれを読んで、文壇の状況を変えるなんてことはできないにしても、平山瑞穂がもっともっと書き続けられる状況になったらいいなあと、ぼんやり考えている。
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