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Saturday, February 19, 2022

映画『ノイズ』

【2月19日 記】 映画『ノイズ』を観てきた。廣木隆一監督。

相変わらず引き画が多い。

この監督はワンカットの長回しで知られる人で、この映画にもそういうシーンはふんだんにあったが、僕はいつもこの監督の力強い超ロングの構図が心に刺さる。そういうところにも注目してほしいなと思う(長回しで撮るからこそ引いた画も増えてくるのは確かだが)

予告編にも使われていた部分なので、ここまでは書いても良いと思うのだが、猪狩島で黒イチジクを育てている圭太(藤原竜也)と、その幼馴染で猟師をしながら時々圭太のいずみ農園を手伝っている純(松山ケンイチ)、同じく幼馴染で今は島の駐在警察官になっている真一郎(神木隆之介)が不審者ともみ合いになって殺してしまうところから話は始まる。

島民の“かさぶた”となって島を守ろうとする真一郎が「なかったことにしましょう」と言い出して、そこからいろんなことが狂ってくる。

そして、ビニールハウスの中で死体を前に立ち尽くしている3人からカメラは引いて、引いて、ゆっくり引いて、ビニールハウス全体がフレームに収まったところで、その入り口の上にタイトル「【noise】ノイズ」が出る。そういう引き画の怖さである。

島にやってきた県警の刑事・畠山(永瀬正敏)が農園を訪ねて「お前がやったんじゃないのか」と詰問するシーンでも、かなり引いた構図になっている。こういう大事なところでは並の監督であればカメラは役者の表情をアップで撮る。それをわざわざ表情が分からないぐらいのロングで撮るのが廣木隆一なのである。

彼の引き画には、自然の大きさを感じさせると言うよりも、人間の矮小さを提示しているような感じを受けながら、僕はいつも彼の映画を観ている。

他にもそういう構図はたくさんある。

中学時代の純と加奈(後の圭太の妻=黒木華)の2ショットからカメラがパンしたら道の向こうに小さな圭太の姿が捉えられたりするのもそうだし、葬儀会場から立ち去る畠山が「ヘドが出そうな団結心だな」と吐き捨てるところも俯瞰の超ロングである。

僕はいつも彼の画作りに魅了されてしまう。今回のカメラは廣木監督とも多くの作品で組んでいる鍋島淳裕だ。

さて、話を最初に戻そう。殺されたのは小御坂(渡辺大知)という男で、少女強姦殺人で逮捕された元受刑者であり、映画の冒頭でもうひとつ別の殺人を犯すとんでもない奴である。

そんな奴ともみ合いになって投げ飛ばしたら打ち所が悪くて死んでしまったのだが、そういうシチュエーションで警官の真一郎が「なかったことにしよう」と言うのはいかにも無理がある。確かに、そういう展開にするための布石は打ってあるのだが、それだけでは説得力に欠ける。

この映画の決定的にしんどいところは結局そこだけだとも言える(ま、他にも乱暴な展開はいくつかあったが…)。漫画の原作がある。脚本は廣木隆一ではなく片岡翔。

その後の予想もしない展開や、島民たちの異常なまでの閉鎖性と、その裏返しの異常なまでの団結心など、テーマ性がしっかりしており、描かれている世界はかなり面白かった。

特に、国の補助金をもらう邪魔になるもの全てを単なるノイズと捉えて排除しようとする町長を演じた余貴美子の怪演が光った。それから、最近ものすごく出番が増えている渡辺大知も強い印象を残した。

ライバルを演じた『デスノート』以来の共演となる藤原竜也と松山ケンイチに加えて、神木隆之介、黒木華、永瀬正敏というピンで主役を張れる役者をこれだけそろえた芝居も非常に見ごたえがあった。

部外者をノイズと捉える異常さ、そして、まさにそのノイズそのものとなってしまった畠山刑事、という構造に加えて、小さなノイズが入ることによってディスクが読めなくなってしまうような事態をも比喩していたように思う。

語りすぎない終わり方も良かった。すべてのことにきれいにカタをつけてしまうと、この映画は空々しいものになっただろう。この先どうなるんだろうという宙ぶらりんの状態(それを英語では suspense と言う)に僕らを放り出したままにしたことによって、余韻はますます深くなった。

たまたま知人がこの映画を貶し気味に書いた記事を読んで一瞬躊躇したのだが、そのあと別の知人がしっかり褒めているのを読んで観に行った。観て良かった。

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