『賢い子はスマホで何をしているのか』石戸奈々子(書評)
【2月1日 記】 筆者は次々とプロジェクトを立ち上げながら日本のデジタル教育を牽引してきた人。親たちや社会が持っている固定観念を打ち砕きながら、スマホやタブレットを駆使した教育や、子供にプログラミングを学ばせるメリットを熱く語っている。
この本のエッセンスは全て「プロローグ」に書かれており、概要を知りたいだけならこの数ページを読めば分かる。例えば:
私は正直、(スマホを)「使ってもいい」「使ってはダメ」の二択で語られていることにものすごく違和感を持っています。(中略)いかにすればデメリットを極限まで減らし、メリットを極限まで増やせるか? そう発想するのが大人の知恵です。(中略)「どうすればリスクを極限までおさえ、デジタルを活用して大きな教育効果を上げられるか」という議論に時間を割くほうが生産的です。(中略)子育てをスマホに丸投げすることと、スマホを活用することは、まったく別問題です。
なんと怜悧な考察だろう。
当たり前のことを、当たり前にやる――。本書でたびたび言及すると思いますが、私が日本の教育にもっとも求めるものはそれです。
そう、教育にはそういう冷静さが必要なのだ。
だが、このプロローグを読むだけではまだ物足りない。挙げられている数多くの例や著者独自の論理展開を通じて深堀りされた本編をぜひとも通読すべきである。
著者はデジタル教育の具体的なメリットを例示する一方で、パパート教授の言う「教示主義から構築主義へ」といったような理念を提示してくる。そして、こう言う:
教育のデジタル化とは、学び方を根底から替えるための手段なのだ
そこには時代に対する考察がある:
みんながみんな同じ方向を向いて進む時代は終わりました。
そして、こんな風にも書いている:
誰かの助けを借りてできることも「できる」と認められるようになれば、夢を語る前に「こんなこと言って笑われないかな?」と心配するより、よっぽど生きやすい。
そう、著者が目指しているのはひたすら生きやすい環境なのであり、そのためのデジタル活用なのである。
デジタル教育のアンチョコではない、理念に満ちた教育書であった。
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