Netflix 『浅草キッド』
【1月23日 記】 遅まきながら Netflix で『浅草キッド』を観た。これを観るために3度目の入会をしたのである。
脚本と演出は劇団ひとりが手掛けている。何をやらせてもこの人のセンスは好きだ。この作品も良い仕上がりだと思う。
柳楽優弥が若い頃のビートたけしに扮している。たけしの特徴をものの見事に掴んでおり、観ている者の思いにすっと馴染んでくる感じがある。こういうのを観ると、どうしても先日観たCX『志村けんとドリフの大爆笑物語』と比較してしまう。
扮している対象が違うので比較するのは酷だが、どうして柳楽優弥のたけしがこんなにリアルで、山田裕貴の志村けんがあんなに空々しかったのか、その差が大きすぎる気がする。山田裕貴もかなり器用な役者である。そこは俳優だけの責任ではなく、脚本や演出の失敗が響いたということもあるんじゃないだろうか。
しかし、この作品で最も注目すべきはたけしの師匠であり、幻の浅草芸人と呼ばれた深見千三郎を演じた大泉洋ではないだろうか。
このドラマは柳楽優弥主演みたいな宣伝の仕方になっていたと思うのだが、中身を見ると主役は明らかにビートたけしではなく深見千三郎である。
劇団ひとりの脚本は間違いなく深見を中心に描いている。無名のたけしがのし上がって行くところに重点を置いていないのである。それが証拠に、ツービートの初めてのテレビ出演のシーンは、彼らが舞台に上がるところでぷっつり切られて、そのあとは描かれない。
テレビ局のプロデューサーからネタにダメ出しされて、一旦は他のネタで漫才をやろうとしたたけしが、本番直前に翻意して「やっぱり元のネタでやる」と言い出すところだ。そのあとどうなったのか、視聴者にはとても気になるところ。
恐らくそのブラックなネタがバカウケして人気爆発したのだろうと思う。本来であれば作品の山場である。しかし、劇団ひとりはそこをすっ飛ばして、売れてきたツービートの出演番組を複雑な表情で見ている深見千三郎のシーンに繋いでいた。
そう、この作品は終始深見を描いている。この視点が良い。
その深見を演じた大泉洋も、たけしを演じた柳楽優弥も、ビートきよしを演じたナイツの土屋伸之も、いずれも的を射たはまり役でとても良かった。
映像的にもとてもきれいで、しかもリアルにきれいで、特にたけしと深見の師弟が並んでタップを踏むシーンは素晴らしかった。たけしの芸人生活の中で、タップがそれほどまでに大きな要素だとも思えないのだが、これをたっぷり前面に押し出した構成も巧いなあと思った。
どれだけ事実に基づいた物語なのか知らないが、虚実の良いバランスのところに位置する作品だったんじゃないかなと思う。
再々入会した意味は充分あった。
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