回顧:2021年鑑賞邦画
【12月28日 記】 例年通り「『キネマ旬報ベストテン』の20位以内に入ってほしい邦画10本」を選んでみた。今回で 16年目。
毎年同じことを書いているが、これは僕が選んだ今年のランキングではない。また、「『キネマ旬報ベストテン』の上位に入るであろう邦画10本」でもない。客観的評価や予想ではないのだ。何と言うか、応援であり思い入れの強さであって、あくまで「キネ旬の」「20位以内に」「入ってほしい」10本である。
今年映画館か試写会で観た邦画は全部で 52本。コロナ禍で減った去年から少し盛り返した。
その中から、まず一覧表を眺めながら、本数を考えずに選び出したら、次の 16本になった。
- すばらしき世界
- 街の上で
- くれなずめ
- 茜色に焼かれる
- はるヲうるひと
- アジアの天使
- 東京リベンジャーズ
- ドライブ・マイ・カー
- 子供はわかってあげない
- 鳩の撃退法
- 空白
- かそけきサンカヨウ
- ひらいて
- そして、バトンは渡された
- 草の響き
- ボクたちはみんな大人になれなかった
今泉力哉監督と石井裕也監督が2本ずつ入っている。
他の監督も選びたいからここは1本ずつに絞るべきだろうと考えて、今泉力哉監督は『かそけきサンカヨウ』を落として『街の上で』に、石井裕也監督は『茜色に焼かれる』を選んで『アジアの天使』を外した。逆に残した2本はそのまま「入ってほしい 10本」に選んだ。
さて、残り 12本から8本を選ばなければならない。今度は外す対象ではなく、どうしてもこれは外せないと思う映画をピックアップしてみたら、『くれなずめ』、『ドライブ・マイ・カー』、『鳩の撃退法』、『空白』、『ひらいて』、『草の響き』が入った。
さあ、残り2本。これが結構難しかった。好みから言えば『子供はわかってあげない』と『ボクたちはみんな大人になれなかった』なのだが、今年は何としても『東京リベンジャーズ』を推したい気持ちがある。
悩んだ末にもう一度考え方を改めて、逆にこの3本を採って『ドライブ・マイ・カー』を外すことにした。この映画はどうせキネ旬ベストテンに入るだろう。毎年「どうせ入るだろう」という映画は外すことが多い(笑) そういう意味では『花束みたいな恋をした』もハナから選んでいない(ちなみに、この映画は僕は大好きです)。
結果として、今年の「『キネマ旬報ベストテン』の20位以内に入ってほしい邦画10本」は下記の通りとなった:
- 街の上で
- くれなずめ
- 茜色に焼かれる
- 東京リベンジャーズ
- 子供はわかってあげない
- 鳩の撃退法
- 空白
- ひらいて
- 草の響き
- ボクたちはみんな大人になれなかった
例年書いている通り、これは僕が観た順番であって、評価の高い順ではない。
少しずつ中身について触れておくと、
1)は説明的な台詞がほとんどない、エチュードではないかと思うほど自然な会話劇。いつもの長回しもすごくて、あんまり何も起こらないけど最後は見事に収束して行く構成。やっぱり今泉監督の観察眼はすごい!
2)は松居大悟監督・脚本。よくもまあこんなダラダラした映画を撮ったなあという感じの映画で、1)と通じるところがある。超絶的に長いワンシーン=ワンカット。人の動き、カメラの動きのコントロールがあっぱれである。「白黒はっきりさせようとするなよ!」という台詞にしびれた。
3)は石井裕也監督。この監督でないとこういう映画絶対撮れないだろうなと思う。そして、やっぱり尾野真千子は巧い! 人生に対する諦観と、その裏側にある生きる強さがとても魅力的に描かれている。
4)は英勉監督。正直言って今まで僕はこの監督の作品をそれほど良いと思ったことはなかった。それだけに今回は是非とも選んでおきたかったのだ。北村匠海、吉沢亮、山田裕貴の3人をはじめ、不良たちを演ずる男優が誰も彼も魅力的。まさに“胸のすく”アクション映画だった。
5)は如何にも沖田修一監督らしい、独創的な映画。撮り方も凝っている(ここにも長回しがあって、つくづく自分は長回しが好きだと我ながら驚く)が、人物の描き方も独特だ。日常的な場面を重ねているだけに見えて、心にずしんと響いてくる。
6)も4)と同じく、何が何でも選んでおきたかった映画。監督はタカハタ秀太、脚本は藤井清美とタカハタ秀太。原作を読んだ人には分かると思うが、あの長くて入り組んだ原作をよくもまあこんなにコンパクトに再構成したと仰天するばかりである。観客の気を全く逸らせない、完成度の高い労作だと思う。
7)は吉田恵輔監督。ま、これを選ばない手はないよね(笑) 吉田恵輔監督らしい展開。計算しつくされた構成に、古田新太の怪演もあって、魅入られたように画面に釘付けになって、しかも見終わった後にいろいろ考えさせられる。度肝を抜かれる映画である。
8)も、もう最初からこれは選ぶぞと決めていた映画。首藤凛監督。早稲田大学映研出身の 26歳。テレビマンユニオン所属。恐ろしいほどの才能である。山田杏奈が演じる主人公に全く感情移入できないのに映画には強く惹かれる。次回作がとても楽しみである。
9)も上映規模は小さかったが見過ごせない名作。斎藤久志という、僕が知らなかった監督。脚本は彼の妻の加瀬仁美。原作が佐藤泰志の小説だと言えば、その感じは分かってもらえるだろう。満たされない、行き詰まった、暗い話であるが、それは僕らの心に通じるものであった。
10)は、まあ、結構話題になってるしね、みたいな感じで観たのだが思いの外良かった。出てくるのは90年代であったりサブカルであったりするが、そこがポイントではない。切ないとか、ほろ苦いとか、エモいとか、そういう一語で語ってはいけない映画だと思った。森山未來と伊藤沙莉が素晴らしい。
さて、今回はこんな感じ。このうち何本が実際にキネ旬の20位以内に入ってくるか。全順位の発表はやっぱり2月初旬なのかな。
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