『NETFLIX 戦略と流儀』長谷川朋子(書評)
【12月30日 記】 著者とは面識がある。彼女の書いた記事もネット上でそこそこ読んできた。だが、こういうまとまった形での単独著作/出版を読むのは初めてである。
すまぬ、今までちょっとなめてた(笑) これは却々の良書である。
僕がこれまで読んできたのはインタビューであったり番組の展示会や見本市の取材報告であったりしたので、今回もそういう簡便なまとめ記事かと思って読み始めたのだが、しっかりと全体的な構想があり、理念を感じさせる文章である。
長いキャリアのある人である。僕は長らくむしろ番組の海外展開の専門家だと思っていた。もちろんそれはそうなのだが、単なる番組販売に留まらず、NETFLIX の取材についても 2014年から続けてきたのだそうだ。
各国/各部門のキーマンと会い、論点をまとめ、それぞれの話を点に終わらせず線で結び、俯瞰的な考察にまとめ上げてある。そして何よりも、彼女自身が NETFLIX の番組を観てる観てる、驚くほど観てる(笑)
僕は実は NETFLIX はこれまであまり観てこなかった。過去2回加入して、2回とも無料視聴期間内で退会している。2回目は引っ越した後だったこともあってかもう一度無料視聴が適用されたのだが、残念ながら今はもう無料期間の制度はなくなっている。
でも、『浅草キッド』がどうしても観たくて近々3回目の加入をする気だったのだが、この本を読んだおかげで、今度入会したらもう退会することはないのではないかとさえ思っている。
僕がテレビ局という業界にいるから知っている話も多く、親近感も得やすいということもあるが、ともかくするすると一気に読める本である。そのくせ何回も Kindle にマーカーを引いた。学びのある本でもある。
この業界と無関係な人であれば僕とは全く違うところにマーカーを引くのだろうと思うが、いずれにしても、読む人によって場所は違えど、あちこちの箇所に注意を惹かれ、いろいろな部分からヒントや納得が得られるのではないだろうか。
参考までに僕がマーカーを引いた部分からいくつか「なるほど!」と思った点をランダムに挙げてみよう:
- NETFLIX は日本上陸直後は「レコメンド機能が充実していて、それに導かれて次から次へと観ることになる」みたいなことが言われていたが、実際はヒット番組はレコメンド機能によってではなく、ソーシャル・ネットワーク上の口コミで広がって行くことが多い。
- 番組作りにおいて地域別とか世界向けとかいうことは一切意識していない。最高のコンテンツができれば全世界で楽しんでもらえるという信念を持っている。
- 『全裸監督』では『ナルコス』の脚本家ジェイソン・ジョージを招き、その指導のものとに脚本チームが執筆に取りかかったとのこと。他のドラマでもそういう手法が採られている。
- 「ローカル or グローバル」でも「ローカル and then グローバル」でもなく、「ローカル and グローバル」をモットーにしている。
- ドキュメンタリの魅力とソーシャル・ネットワークの相性の良さを NETFLIX が再認識させた。
等々。筆者の観察眼と分析力の確かさを思い知った気がする。
中でも筆者が取材を通じて得た自分の感慨として非常に良いことを書いているので、それを以てこの文章の締めとしたい:
若者に視聴体験を提供することは未来への投資なのだ。
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