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Saturday, November 27, 2021

映画『幕が下りたら会いましょう』

【11月27日 記】 映画『幕が下りたら会いましょう』を観てきた。前田聖来監督。

僕とは長年 twitter の相互フォロー関係にある女優の日高七海さんが出演していた、前田監督の前作『いつか輝いていた彼女は』を観たのが 2018年12月。この監督はとても才能のある人だと思った。

そして、たまたま舞台挨拶の回だったこともあって、日高さんに前田監督を紹介してもらった。1996年生まれだから、当時はまだ22歳。元女優だけあってとてもきれいな人だ。

もらった名刺には、しかし、「映画監督 前田聖来」などとは書いておらず、それは一般企業に勤めるサラリーマンの名刺だった。そう、彼女は会社勤めを続けながら映画を撮っているのである。この映画にはそんな彼女の思いがたっぷりとつまっている。

冒頭、実家の美容院で麻奈美(松井玲奈)と尚(筧美和子)が、何やら意味深な会話をしている。今日家を出て行く尚が麻奈美に向けた言葉の棘の意味がその時は観客には分からない。

麻奈美は30歳になったが、母(しゅはまはるみ)の美容院の手伝いをしながら、学生時代からやってきた演劇を続けている。女優ではなく、作演出だ。しかし、全く芽が出ない。当然彼女たちの「劇団50%」の役者たちも全く食えない。それで、酒の席で醜い言い争いになったりもする。

そして、まさにその言い争いのあった日に、尚が突然死んでしまう。母は見る影もないくらい落ち込んでしまう。そして、いつも明るく天真爛漫だった尚にも秘密があったことが分かる。

一方で、麻奈美には自分の作る芝居がぱっとしないということ以外に苦悩がある。それは、彼女最初の作品であり、賞を受けた『葡萄畑のアンナ・カレーニナ』にまつわるものだ。

尚の同僚だったというほのか(江野沢愛美)を通じて知り合った NGO主催者の新山(木口健太)が一緒に芝居をやりませんかと言ってくれ、麻奈美は再び生きがいを見つけたように見えたが、やがて新山の思惑に振り回されて望まない方向に進み始める。

…と、94分の映画の中に非常にたくさんの要素が詰め込まれており、時系列も多少前後するが、よく整理されていて解りにくくはない。ちなみに脚本は大野大輔と前田聖来の共同。途中から参加した大野のアイデアを前田監督が取り込んだ形だ。

そんな中で、麻奈美の高校時代からの盟友・早苗を演じたのが日高七海だ。これは本当に前田聖来と日高七海の盟友関係を映しているようにさえ見える。

この映画の中では、時には麻奈美に罵られながらいつも麻奈美に寄り添い、麻奈美の芝居作りに少しでも力になろうとするのだが、一方で自分の才能のなさにもしっかり気づいている。難しい役柄を本当に見事に演じきっていたと思う。僕はやっぱり役者・日高七海が好きだ。

クライアントの横槍で突然主役に選ばれる女優に扮していたのが hibiki なのだが、彼女が実際にこの映画に出資(「製作」であり「制作プロダクション」)しているエイベックス所属のダンス&ボーカルグループのメンバーであるところが面白い。

この映画にはそういう皮肉がたくさん散りばめられている。ある意味それは制作者の悪意ではあるのだが、そこでもがく主人公を描くことが逆に鼓舞になるのである。ある種痛々しい環境の中で、それでもしっかり意思を貫こうとする姿が清々しい。

そして、キャスト/スタッフ・ロールの後の、あの何でもない日常の風景のラスト。あのシーンが始まった時は「なんじゃこりゃ、これがラスト・シーンか?」と思ったのだが、観ているうちにだんだんと染みてきた。

良い映画だった。次回作にまた期待したい。

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