『世界史は化学で出来ている』左巻健男(書評)
【10月11日 記】 タイトルから分かるように世界史を化学の面から解き明かした本である。
肩タイトルはもっと分かりやすく「絶対に面白い化学入門」とあるように、僕はこれを世界史の本ではなく化学の本と捉えて読み始めた。世界史は世界史で面白いのだが、僕にはより馴染みのない化学のほうが遥かに面白い。
物質は何からできているのか? 何かと何かが化学反応を起こすと何ができあがり、何が起きるのか? そして、そういうことを人間はいつどのようにして突き止めて、何に利用してきたのか?
──そういうことがギリシア時代の昔から書き起こしてある。
僕らが知っているたいていの化学の本は周期表から始まったりする。僕らが学校で習った化学もそれに近かったんじゃないだろうか。
ところがこの本は、人間が火を使用するようになってから、いろいろな研究の末に周期表にたどり着くまでの記述にかなりのページを割いている。今の周期表に辿り着く前の、間違った知識のいくつかにも触れている。その辺がとても面白い。
面白いなと思いながら読み進めて行くうちに、昔学校で習ったことをぼんやりと思い出す。習ったはずなのに完全に忘れていることを思い出したりもするが、習ったのか習ってないのか定かでないこともある。
世の中の物質は大ざっぱに三つに分けられる。金属、イオン性物質、分子性物質である。
そんなこと習ったっけ?
「酸をつくるもの」というギリシア語から、「酸素」という名前にしたのだ(後に、塩酸には酸素がふくまれておらず、酸のもとは水素で、酸素は酸のもとではないことが判明する)。
そうだったのか! どうして酸素という名前なのか、僕はずっと不思議だったのだ。
それ以外にもセラミックとは何を指すのかとか、鉄と炭素が合わさったものを鋼と呼ぶとか、知らなかったことがいっぱいある。
そして、これは僕が読んでいて勝手に気づいたことで、著者はそんなことはまるで書いていないが、『鋼の錬金術師』のキーとなる登場人物ホーエンハイムは、16世紀に実在した錬金術師パラケルススの本名から取ったのだということも分かった。
今では地球温暖化の元凶とされているフロンが、開発当初は人類にとっての夢の物質として重宝されていたことも知らなかった。
途中、第5章から7章辺りで、物質の組成や特徴、化学反応などから少し離れて、世界史寄りの内容になるところがある。そういうほうが面白いと思う人はいるのだろうが、僕は少し退屈した。
もっともっと物質の法則や性質、物と物との反応に焦点を当ててほしいと思った。考えれば考えるほど、僕らはそういうことの上で生きているのだから。この本を読めば読むほどそういう思いに駆られるのだから。
ただ、多少の中だるみはあったにせよ、本全体としては充分に知的好奇心を刺激してくれる読み物であり、このことが分かって良かったと思うことがたくさんあった。
なるほど確かに世界史は、いや、むしろ世界は化学でできているのである。
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