『カラフル』森絵都(書評)
【7月23日 記】 去年『風に舞いあがるビニールシート』で初めて森絵都を読んで、深い感銘を受け、その巧さに驚いた。これは是非にも他の作品もと思って『みかづき』を読み、それに続いて本書を選んだのだが、しかし、もう少し調べてから選ぶべきだった。
直木三十五賞を受賞した『風に舞いあがるビニールシート』と違って、その9年前に出版された本書は、まぎれもなく児童文学であり、森絵都も 100%児童文学者と捉えられていた時代の作品だったからだ。
僕は最初に読んだのが『風に舞いあがるビニールシート』でつくづく良かったと思う。先に児童文学を読んでいたら、二度とこの作家の本を手に取らなかったかもしれない。
本書は優れた児童文学なのだろうと思う。それは決して否定しないが、大人が読むには少し設定がチャチで、少し文章が幼くて、話の進み行きが軽い。そうとまで感じない大人の読者もいるのかもしれないが、少なくとも僕の好きな文体、僕が好む作品ではない。
そして、何よりも残念だったのは、Kindle の画面に「33%」という表示が出ていたので、ちょうど3分の1を読んだ当たりだと思うのだが、その時点で僕は電撃的にこのストーリーの結末を読み切ってしまったということである。
あとは自分の仮説を検証しながらページを繰るという変な読み方になってしまった。で、果たして最後まで読むと、そこで明かされた秘密が僕の予想通りだったので、感動が削がれてしまった。
僕はついつい自分が書いているようなつもりで小説を読み、自分が撮っているようなつもりで映画を観てしまうからなのだろうか、時々こういうことはある。
まあ、でも、若い世代に贈る良質なストーリーであることは確かだ。
死んだはずの主人公が、天使業界の抽選に当たり、再挑戦のチャンスを得て、自殺を図った少年の肉体にホームステイするという奇想天外な設定は、少年少女の興味を充分に喚起するのだろう。
彼らに投げかけるべきたくさんのメッセージを上手く織り込んで編み込んだ小説である。彼らを救い、彼らを元気づけ、彼らに未来を託すステキな作品である。
でも、次は大人向けの作品を選ぼうと思う(笑)
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