『読みたいことを、書けばいい』田中泰延(書評)
僕は、どう書けばみんなに読んでもらえて共感してもらえる文章が書けるのかを学ぼうとしてこの本を読んだのではない。
最近そういう文章術指南書の類があまりに多くて辟易していたのである。まあ、読めばそれなりになるほどとは思うのだが、しかし、その通りにやってみようという気にはならないのだ。
そういう本や記事にちょっと嫌気が差してきて、それで note にこんな文章を書いたりもした:
僕が田中泰延のこの本を長らく手に取らなかったのも、多分そういう類の本だろうと勝手に想像していたからである。でも、読んだ人の感想や、本人が別のところに書いたりしていることを読むと、どうやらそんな本ではなさそうだ──そう思ったから読んだ次第である。
実際読んでみると、この本には「まあ、とりあえず、自分が読みたいことを書いてみたらええんちゃう?」みたいなことが書いてあって、それ以外のことはほとんど書かれていない。
まことに関西人らしく、読書のリズムを狂わせるようなおちゃらけやバッド・ジョークがいっぱい挿入されているので、かなり安心して読める(笑)
中にはこの戯言を楽しみに読むひろのぶファンもいるのだろうが、僕はそういう部分は華麗にスルーして読み進んだ(何箇所かで不覚にも笑ってしまったが)。
で、なんかいい加減なことばかり書いてあるように見えながら、ときどきハッとするほど事の本質を突いた洞察や分析がある。読んでいると、意外に何箇所もそういう説得力のある言説に出会う。
でも、そこにあまり気を取られてはいけない。その部分がどれほど正しくても、多分そんな小さなところにこだわるべきではないのだ。
田中泰延は結構多くのところで、僕が前から感じていたようなことを書いてくれている。だから、あー、すっきりした──それが僕の最初の読後感である。
本を売るためには言い切る必要がある。これを飲んだら必ず痩せる、とか、このエクササイズをやれば腰痛は完治する、とか、こんな風に書いたら間違いなく読んでくれる、とか。
田中泰延は、それらは全部嘘だと書いている。そして、自分の本では当然そんなインチキな言い切りはしない。いや、そんな近道なんかないのだと言い切ってはいるが(笑)
なのに、何も言い切っていないのに、田中泰延の本が結構売れているとしたら、これは画期的な本の売り方である。
しかし、それは現に売れているからさらに売れるのであって、好循環に入っただけだ、とも言える。でも、その好循環に入るために何をしたかと言うと、読みたいことを書いただけなのだと田中泰延は言うのだろう。
とは言え、それでは誰に対しても何の参考にもならない。まあ、でも、読みたいように読めばいいのではないだろうか。僕はそんな読み方をした。
だから、読み終わって大変すっきりした。あなたが読み終わったときに、僕と同じようにすっきりするかどうかは知らない。ただ、この本がそういう本であるということは間違いがないと思う。
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