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Sunday, April 04, 2021

映画『ノマドランド』

【4月4日 記】 映画『ノマドランド』を観てきた。

ドキュメンタリみたいな映画だ。いや、新奇な情報が多いから、ついついドキュメンタリ的な見方をしてしまうのだ。

いやいや、これは本当にドキュメンタリみたいな映画でもあるのだ。主演のフランシス・マクドーマンドとデビッド・ストラザーン以外は全員本物のノマドで、彼らには台詞ではなく自分の言葉で自分のことを語らせ、それを映画的に構成したと言う。

それにしてもあまりにアメリカ的な映画だ。アメリカ的な新奇な情報に溢れた映画だ。一緒に見に行った妻が、「会社が潰れて社宅を追い出されたって、すぐにノマドになれるのは日本では清水国明ぐらいのもんでしょ」と笑っていたが、言いたいことは解る。

あまりにも広大な土地がある。まさに荒涼とした、バイソンしか歩いていないような道を改造バンで走る。何の物陰もないところで女性がパンツを下ろしておしっこをしても誰にも見つからない。

日本では車を駐めるところがまずないだろう。ものすごい山の中なら駐められるだろうが、ものすごい山の中では暮して行けない。

従業員が駐車場に車を駐めっぱなしにして、しかもそこで寝起きすることを許す会社が日本にあるだろうか?

年取ってから旅に出る人がどれだけいるだろうか? 自分で車を改造する高齢者がどれだけいるだろうか? 旅先で出会ったノマドに「やあ」と声をかけて気軽にタバコを恵んでもらったりできる人がどれだけいるだろうか?

みんないろんなきっかけから、多くは悲しい体験のあとにノマドの生活に入っているのだが、この放浪生活を、彼らは「アメリカの伝統」だと胸を張って言うのである。

大した事件も起こらない。せいぜいタイヤがパンクしたり、お皿を落として割ったりする程度だ。アクションもない。恋愛めいた要素が全くないわけではないが、セックスはおろかキスさえしない。

“ホームレス”ではない、“ハウスレス”の、多くはプア・ホワイトの生活の記録である。

アメリカ大陸の寂寞とした大自然が静かに彼らに覆いかぶさってくる。何かを伝える映画ではない。何かを考えさせる映画なのである。

だから、アカデミー賞最有力候補などと聞いて、感動させてくれる、泣かせてくれる、などと期待して観に行くと肩透かしを食らうのではないだろうか。

静かで重くて、自分で考える人間にしか行き先を示さない映画なのだと思った。

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