NHK『星とレモンの部屋』
【4月5日 記】 NHK から録画しておいたドラマ『星とレモンの部屋』を観た。
どこからどんな情報を得てこれを録画しようと決めたのか、実はもう全く憶えていないのだが、放送から2週間以上経って観てみたら、これがあまりに面白くて、あまりによくできていて、慌ててネットで調べてみた。
この作品は日本放送作家協会主催の第44回創作テレビドラマ大賞に選出された佃良太による脚本を、NHK がテレビドラマ化したものだった。
佃良太という人がどういう経歴の持ち主なのかは分からないが、写真を見る限りはまだ若い人で、「シナリオ・センター」の8週間講座終了生だそうだ。映像化されるのはこのドラマが初めてなのだろう。
主人公はいちこ(夏帆)。中学時代にいじめに遭って、以来18年間自宅の部屋に引きこもっている。部屋の中は灯りを消して家庭用プラネタリウムで星を映し出している。
隣の部屋には母(原田美枝子)がいる。ドア越しに、努めて明るく、冗談交じりにいちこに話しかける。いちこも母親とならば、そして、ドア越しであればある程度フツーに喋れる。
いちこがいつもパソコンでやり取りしているのは同じく引きこもりの涼(宮沢氷魚)。いちこが母一人子一人であるのと同じように、涼の家族は父親(田中哲司)だけだ。
そして、そんな引きこもりの親がもしも突然死んでしまったら…そういう想定の、いわばワン・シチュエーション・ドラマである。
知らなかったのだが、高齢の親と暮らす中年の引きこもりの子供が、親子ともども社会から孤立してしまう問題を「8050問題」と言うらしい。このドラマでは子どもたちはもう少し若く、「6030問題」ぐらいの感じなのだが、30歳前後ぐらいのほうが若くて中途半端なだけに痛々しい。
いちこは母が倒れて「開けて」と言っても最初はまさか倒れたとは思わずドアを開けない。でも、あまりに様子がおかしいので薄くドアを開けてみると倒れている母が見える。
いちこはそこで慌ててドアを閉めてしまうのである。どうすることもできない──それが引きこもりだ。
勇気を振り絞って 119番に電話をかけたが、言葉が喋れず切ってしまう。
チャットの最中だった涼に「私の言うことを信じてもらえますか。母が死にました。どうすれば良いですか」と訊くと、涼は「鼻と口にティッシュを詰めなさい。そうすれば悪臭の発生を抑えられます」と答える。
もうこれ以上は書かない。ホラー的な話かと思ったら、結構ハート・ウォーミングと言うか、人間の絶望とともに希望をも描いた、ハートにぐさりと刺さる話だった。
もしどこかで観られる機会があれば、是非ご覧あれ。
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