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Saturday, March 27, 2021

映画『騙し絵の牙』

【3月27日 記】 映画『騙し絵の牙』を観てきた。本来であれば昨年の 6/19 に公開のはずが、コロナ禍で延期になっていた作品だ。

もう、べらぼうに面白かった。吉田大八監督の作品は『クヒオ大佐』以外全部観ているが、一度も期待を裏切られたことがない、と言うか、観るたびにぶっ飛んでしまう。

今回で言えば、このテンポだ。もちろん物語自体の面白さもあるのだけれど、映像作品としてのこのテンポは(BGM の選び方と使い方の巧さもあってのことだが)他の監督には出せないのではないかと思った。

とても構成力のある監督だとは思っていたが、今回のテンポには舌を巻いた。映画の最初から最後まで一瞬たりとも観客の気を逸らせない。

原作の小説を書いた塩田武士という作家を、僕は読んだことがないのだが、聞けば『罪の声』もこの人だとか。これはかなりのストーリー・テラーである(逆にストーリーしか語らない作家かもしれないと思うと怖くて読めないのだがw)

しかも、この小説は塩田が大泉洋を主人公に当て書きしたというから驚きだ。

そして、その大泉洋を主役に映画化しておきながら、大泉は撮影中に監督から何度も「今のは大泉さんっぽかったから NG です」と言われたと言うから、これまた面白い。大泉のようで大泉でないのである。それこそがリアルということではないだろうか。

薫風社という老舗出版社に転職してきた速水(大泉洋)。最初はただ軽くて調子の良い男のように見えるのだが、カリスマ社長の死後、文芸畑の宮藤常務(佐野史郎)を退けて社長に就任した営業出身の豪腕・東松(佐藤浩市)の懐刀的な動きをしているのが分かってくる。

一方、薫風社の看板文芸誌の編集部で、ひとり新しい感覚を持ち込んで浮いていたのが本屋の娘・高野恵(松岡茉優)。

速水は最近下降気味の雑誌編集部に彼女をスカウトして、次々と奇策を打ち出していく。これが思いつきでテキトーなことをやっているように見えて、実はいちいち全部が深慮遠謀に基づく権謀術策であることが次第に分かってくる。

この辺のどんでん返しの仕掛けだけでも面白いのだが、展開の仕方がめちゃくちゃ上手いのである。そう、ひとつひとつのシーンの確かさと、その繋ぎ方がミソなのである。そして、台詞回しがとてもリアルで言葉の選び方が適切で、それぞれ演じる俳優にぴったり嵌っている気がする。

今や当て書きされるほどの存在である大泉洋、若手女優の中では群を抜いて巧い松岡茉優に加えて、文芸評論家の小林聡美、文壇の大御所の國村隼、往年の名作家のリリー・フランキー、新進作家の宮沢氷魚、ファッションモデルの池田エライザ、恵の父であり本屋のオヤジの塚本晋也など、みんながみんな良い味を出している。

いきなりシャンソンを歌い出す國村隼なんて、秀逸だった(笑)

出版業界の内幕的なところもあり、企業ドラマとして見ても面白いし、退潮著しい出版業を考え直す材料と見ても面白い。

脚本は吉田大八と楠野一郎。この人の名前には記憶はない。それほどの実績もないみたいだが、良い本だった。撮影は『風花』や『雪に願うこと』などの町田博。久しぶりの映画撮影だったのではないだろうか。

台詞もカメラも含めて、最高の演出だったのではないだろうか。あっぱれな作品である。

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