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Sunday, February 14, 2021

映画『ファーストラヴ』

【2月14日 記】 映画『ファーストラヴ』を観てきた。堤幸彦監督。原作は島本理生の直木賞受賞作。今回は珍しく原作を読んでいる。ただし、毎度のことながらほとんど憶えていない。映画を見たら思い出すかと言うと、それほどでもない(笑)

ただ、やっぱり「こんな作品だったかな?」という思いはある。なんとなく原作はもっと面倒くさい小説であったような気がするのだ。ただし、これは僕が彼女のデビュー作『ナラタージュ』を読んだときの感想と混同しているのかもしれない。

ただ、いずれにしても人が生きて行くことの痛みを描いた小説だ。そして、映画のほうも、いくつかオリジナルのシーンを入れ込みながら、基本的には原作のラインを守って作って行ったようだ。

高名な画家である父親(板尾創路)を包丁で刺し殺した女子大生・環菜(芳根京子)。彼女は警察の取り調べに対して「動機はそちらで見つけてください」と言ったと報じられている。

公認心理師(原作では臨床心理士)の真壁由紀(北川景子)は彼女を取材して本を書こうと思う。恐らくなんとなく彼女の中に、自分が父親に対して抱いて悩み苦しんできた嫌悪感と近しいものを嗅ぎ取ったのだろう。

彼女の弁護を引き受けた弁護士は夫の我門(窪塚洋介)の弟(実際は従兄弟だが、事情があって我門の両親に引き取られ、弟になった)庵野迦葉(中村倫也)だった。

由紀は大学時代に迦葉とつきあっており、我門と知り合ったのはその後なのだが、それを隠して我門と結婚した(原作では隠していない)。

上にも少し書いたように、この物語では主人公の由紀と殺人犯の環菜の2人ともに、父親をめぐる似たような性的なトラウマがある。必ずしも犯罪的な行為があったわけではない。ただ、その絶望感と嫌悪感と恐怖感と諦めを混ぜ合わせたような感情を、2人とも「目が怖い」という表現で表している。

浅野妙子の脚本はまとまりが良すぎて、もう少し分かりにくくても良かったのではないかという気がした(もちろん分かりにくい部分も適宜残してあるのだが)が、役者たちの好演もあり、堤演出も外連味なく、良い映画になったと想う。

役者についてまず書きたいのは、どうでも良いことだが、ショートヘアの北川景子が可愛い(昔から髪の短い女の子が好きなものでw)ということ。いや、演技も良かったですが(笑) そして、中村倫也はいつもの不思議な感じ(と言うしかないよね、この人はw)

それから芳根京子がすごい。2015年の『表参道高校合唱部』で初めて見たときに、「えらい子が出てきた!」と思ったのだが、あれからどんどん役の幅が広がっている。今回は堤監督が「ある種の“化け物感”がある」と言っているが、まさにその通り。鬼気迫る演技だった。

それから、無類の良い人である我門を演じた窪塚洋介も素晴らしかった。こいつはどっからどう見ても変人の俳優(もちろん印象論であり面識があって書いているのではない)だが、こんな役もできるのか、と大いに驚いた。

堤監督から「ただただ何もしないでほしい」「我門は数々の修羅場やいろんな大変な目に遭って一周回っているから、今の悟ったような穏やかさがある」と言われて、本人は「結構きつかった」と述懐しているが、ちゃんとそのとおりに演じきれるところがやはりタダモノではない。

そして、木村佳乃の取り乱し/ぶっちぎれ母ちゃんもぶっ飛んでたし、板尾創路の目も本当に怖かった。

そんな役者たちに支えられて、細かいカット割りをすることで有名な堤監督が、今回は山場の3箇所を長回しで撮ったということがパンフに書かれているが、僕はあまり気がつかなかった。

確かに「おっ、こんなとこでこんなカット割ってきた!」というのが堤幸彦であるのだけれど、これらのシーンはそんなことを考えさせないくらい、一気に盛り上がる流れが出来上がってしまっていたからである。

とりわけ、刑務所の面会室のアクリルガラス越しのシーンはものすごい迫力で印象に残った。

陰惨な話だが、後味の良い作品に収まった。

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