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Friday, October 30, 2020

映画『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』

【10月30日 記】 映画『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』を観てきた。

コロナの影響もあって10月は観たい映画の封切りが集中したため、何を採り何を棄てるかが悩ましいのだが、この映画は是が非でも観なければならない。

客はシニア層だけかと思ったら、結構若い人もパラパラいた。ただし、女性はほとんどいなかった。

ザ・バンドについては僕は遅れてきたファンだ。何と言っても『ザ・ラスト・ワルツ』からのファンなのだから(笑)

でも、解散してから遡って聴き始めた(もちろん解散前から社会現象としては知っていたのだが)ビートルズと違って、かろうじて解散には間に合い、あの素晴らしい解散コンサートを(もちろん現場にいたわけではないが)リアルタイムで(つまり、レコード発売と同時に)聴けたのである。

ザ・バンドの魅力は何と言っても楽曲の素晴らしさ、そしてアレンジメントの独創性、ハーモニーの美しさ、つまりはバンドとしての完成度の高さなのだが、決して忘れてはいけない、と言うか、忘れようとしても忘れられないのが、ロビー・ロバートソンの、誰にも真似のできない、天上天下唯我独尊のギター・プレイである。

どこからあんなフレーズが出てくるのか想像がつかない独特のフレーズ、そして、どうやったらあんな音が出せるのか不思議で仕方がない奏法。

間違いなく彼は世界のロックの歴史の中で最高峰のギタリストであり、唯一無二のミュージシャンである。

この映画の監督は当時24歳だったドキュメンタリストのダニエル・ロアー。そして、途中から出資に加わったイマジン・エンタテインメントのトップであるロン・ハワードと、ラフを見せられて感激して後追いで参加を決め、映画の中ではインタビューもされているマーティン・スコセッシが製作総指揮に名を連ねている。

ファンには言うまでもないが、マーティン・スコセッシはドキュメンタリ映画『ラスト・ワルツ』の監督を務めている。

映画化はロビー・ロバートソンの自伝がきっかけであったこともあり、ロビーへのインタビューを中心に進められる。しかし、考えてみれば、リチャード・マニュエルもリック・ダンコもリヴォン・ヘルムも死んでしまって、残っているのはロビーとガース・ハドソンだけなのだ。

ガースへのインタビューも撮ったらしいが、あまりに老いさらばえた感じだったために、監督の判断でこの映画には出てこない。だが、過去映像では当然ガースも他の3人も歌い、演奏し、喋っている。

映画『メイキング・オブ・モータウン』も凄かったが、ここでもアーカイブ映像の掘り起こしが凄い。バンドの今は亡きメンバーの映像が出てくるのは当然として、ジョージ・ハリスンの肉声が(もちろん映像つきで)現れたのには驚いた。

ロニー・ホーキンスやボブ・ディラン、エリック・クラプトン、ヴァン・モリソンら、ザ・バンドゆかりと言って良いミュージシャンたちが出てくるのはともかくとして、ブルース・スプリングスティーンやピーター・ガブリエルが、ザ・バンドを初めて聴いたときの話を熱に浮かされたように語る姿にこちらまで嬉しくなった。

中でも、あまりに感激したエリック・クラプトンが彼らを訪ねて、「リズム・ギター担当でも良いからメンバーに入れてくれ」と頼んだが断られたというエピソードには仰天した。

サイケデリック・ロックが興隆してきた時代に、彼らはその手の楽曲の影響を全く受けず、全く逆の音を創り出して一躍スターダムにのし上がった。映画の中で彼らの音楽は実に様々な言葉で形容されているが、southernness という英単語は初耳だった。

しかし、あの時代の音楽には染まらなくても、あの時代の文化には染まってしまい、ロビー以外のメンバー、とりわけリヴォンが酒とドラッグに溺れ、中毒になり、そこからロビーとリヴォンの関係がおかしくなってしまったのだそうだ。と言うか、リヴォンが一方的におかしくなってしまったらしい。

ロニー・ホーキンス&ザ・ホークスに最初に入っていたのがリヴォン・ヘルムで、自分と同い年ぐらい(15~16歳)に見える彼がスティックを回しながらドラムスを叩く姿に惚れ込んだロビーはやがて彼と兄弟のような親友になり、その2人に後の3人が加わってザ・バンドができた。

そんなザ・バンドの歴史(あるいは裏事情)を今日はじめて知った。ネイティブ・アメリカン(ネイティブ・カナディアン?)の血を引くロビーの母親や、ロビーの出生や生い立ちにまつわるもろもろ、そして美しいロビーの妻・ドミニックの存在がロビーの音楽人生にとってもとても大きかったということも、今日初めて知った。

超大物が後から加わってきてやりにくいなと思っていたダニエル・ロアー監督に対して、マーティン・スコセッシが与えた2つのアドバイスのうちのひとつ、「映画を進めるために音楽をうまく使うこと。音楽に合わせて画面を編集すること」がしっかり生かされて、質の良い音楽ドキュメンタリに仕上がっていた。

『ラスト・ワルツ』での I Shall Be Released は何度聴いても涙が滲んでくる。同様に The Weight もガツーンと来る。この映画のオープニング曲が Once Were Brothers、エンディング曲が Ophelia という構成も秀逸だった。

ザ・バンドが好きだった人は何があっても見逃してはいけない作品だ。

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