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Saturday, October 10, 2020

映画『ミッドナイトスワン』

【10月10日 記】 映画『ミッドナイトスワン』を観てきた。

とても美しい映画だった。バレエ教室と劇場と海岸──何箇所も出てくるバレエのシーンをとてもきれいに撮っていたのがまずは印象的だが、バレエのシーンだけではない。

まずは冒頭のショーパブの楽屋。凪沙(草彅剛)をはじめとする4人のトランスジェンダーが 180度くるっと回って赤いトウシューズを履くシーンからすでに美しい。

場末の感じのショーパブの楽屋も、凪沙が暮らすアパートも、決してきらびやかでも小ぎれいでもないのに、映像としては美しい。レインボーブリッジも、東京の夜の空撮も何もかも本当に美しく撮ってある。

海辺で一果(服部樹咲)がバレエを舞い終わって、振り返ったら、画面の左奥に一果、右の手前に凪沙の後ろ姿──これは一例だが、すべてのカットの構図が素晴らしいと思った。

広島の中学生・桜田一果は母親(水川あさみ)が飲んだくれて育児放棄するに及んで、東京で一人暮らしをしている親戚の凪沙に預けられることになる。頼み込んできた凪沙の母親(根岸季衣)は息子がトランスジェンダーであることも、ショーパブで働いていることも知らない。

凪沙はそれを隠したまま一果を預かることにする。新宿駅前で待ち合わせた一果は、持たされた凪沙の男性時代の写真と本人を改めて見比べてみる。凪沙はそれをひったくって破り捨て、「田舎にこのことを言ったら殺すわよ」と脅す。

一果にとっては元々気乗りしない東京行きだった上に、クラスメートからは「あれはお前の父ちゃんか、それとも母ちゃんか」などとからかわれて椅子をぶつけるなど、誰とも心打ち解けない。

そんな中、下校途中に見つけたバレエ教室に惹かれた凪沙は、やがて体験入学もし、そこに通っていた同じ中学の生徒のりん(上野鈴花)と友だちになり、バレエの教師(真飛聖)にバレエの才能を見いだされ、次第にバレエに打ち込んで行く。

一果を演じた服部樹咲はオーディションで選ばれた新人であるが、このバレエの巧さは何だろう?と思ったら、バレエ界ではいろいろなコンテストで上位に入ってきたジュニア・バレリーナだった。このキャスティングが大成功だった。

もちろんバレエのシーンがきれいだったということもあるが、心を開かない少女の微妙な気持ちの移ろいをしっかり演じていたと思う。

ストーリーはこれ以上書かないが、この映画は一果の世界的バレリーナへの道を描いた映画ではない。トランスジェンダーの凪沙の苦しい生き様と、紆余曲折はあったが結局その彼を支えた一果の存在を描いた映画で、だからこそ胸にずしっと響くのである。

僕は内田英治という監督はほとんど観たことがない(『全裸監督』ぐらいかな?)ので、果たして面白いのかどうか、観ようかどうか迷ったのだが、観た人の評判が良いので観ることにした。見逃さなくて本当に良かった。愛おしくなる映画だった。

年末の賞レースでは内田英治の監督・脚本、伊藤麻樹の撮影、それからもちろん作品賞もいくつか獲るのではないかな。そして、当然、草彅剛も主演男優賞候補である。

「本物のオカマちゃんみたいで上手に演じていた」というようなレベルではない。人生の哀しみと救いを余す所なく表現した入魂の演技だった。

画のきれいな映画はいつまでも印象に残る。とても良い映画だった。

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Comments

私も迷いながらも観ました、そして、揉めたパブのステージで踊る一果ちゃんを見る凪沙の優しい顔に本当に刺されました。ピアノの音楽も合っていて素晴らしかったです。

Posted by: | Tuesday, October 13, 2020 14:28

> 名無しさん

そう、あそこもものすごく印象に残る、とても良いシーンでしたね。

Posted by: yama_eigh | Tuesday, October 13, 2020 22:29

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