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Friday, October 02, 2020

『正義を振りかざす「極端な人」の正体』山口真一(書評)

【10月2日 記】 僕は2016年に、本書の著者である山口真一氏が 田中辰雄氏との共著で出版した『ネット炎上の研究』を読んでいる。タイトルの示す通り、あの本はしっかりとした調査とデータに基づく学術研究書であった。

その中で一番インパクトの大きかった事実は、「炎上参加者はネット利用者の 0.5%だった」ということであり、さらには我々が炎上参加者に対して勝手に思い込んでいたイメージ(低収入、低学歴、独身のネット・ヘビー・ユーザ)は正しくなかったことも思い知らされた。

今回はその山口氏が単独で物した本で、前作と同じく正真正銘の学術研究書であり、決してライトなエッセイなどではない。だが、前作より読みやすいのも確かである。

そして、上で「炎上参加者」と書いた人たちのことを、ここでは「極端な人」という、ややマイルドな表現で統一している。

それは炎上を目論む悪意のある人間を刺激しないためのネーミングなのではなく、あなたも私もちょっと極端になってしまうと攻撃者になってしまうのだという意味が込められているのである。

とにかく、ネットを使っている人は全員この本を読んだほうがいい。あるいは、読んだ人は読んでいない人に内容を教えてあげたほうがいい。こういうことを頭の中でしっかりと明文化することができていれば、僕らは炎上に加担しないで済むし、攻撃を受けても精神の安定を保つことができるかもしれない。

今回はそういう著者の願いが溢れてのことだろうか、学術研究書でありながら若干道徳の教科書みたいな書きっぷりになっているところもある(笑)

しかし、いずれにしてもこれは著者の思いつきや想像で書かれたものではなく、しっかりと分析された結果の表現なのであり、我々ネットのユーザがこういう認識を保持しておくことはとても大事なことだと思う。

折しも木村花さんの事件が起きてしまったばかりであり、そのことについても本書は触れている。もう少し前のスマイリーキクチ事件のことも取り上げているし、昨今の不謹慎狩りなどについても考察を進めている。

「谷型の意見分布」や「集団極性化」、正義感というものの特徴、テレビと炎上との関係、取り締まり法制化の限界、「行為者・観察者バイアス」など、我々がネットを使う上で知っておくべきさまざまなことをエビデンスベースで示した上で、しっかりした考察を加えてくれている。

ともかく今のインターネットの状況はあまり良くない方向に行っているのだ。でも、だからといって著者はインターネットそのものを否定したりはしない:

私はネット社会の未来はくらいというスタンスはとらない。

重ねて書くが、ひとりでも多くの人がこの本を読んで、肝に銘じてほしい。一人ひとりがそうすることによって、確実に悲しい事件は減少するはずだ。

著者は書いている:

「自分はこの人たちと違って正しいんだから批判して当然」と思った時、あなたは正義中毒に侵されているのだ。

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