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Friday, August 14, 2020

『熱源』川越宗一(書評)

【8月14日 記】 買ったまま長いこと放ってあった直木賞受賞作。

読み始めてすぐに思ったのは、この人はアイヌの末裔なんだろうか?ということ。もし僕が作家なら、そうでなければ怖くて書けない気がする。アイヌでない人がアイヌの物語を綴ると、間違いなくアイヌやその末裔から「それは違う」とのクレームが来るだろうから。

しかし、名前を見る限りそれっぽくない。もし、そうではないとしたら、 そこに至るまでには、興味の強さもさることながら、書くための調べ物も半端ではなかっただろう。何が彼をそこまで至らしめたのだろう?

いや、別にアイヌに興味を持つのが変だとか悪いとか言うわけではない。ただ、例えばマラソンに興味を持ったとかエレキギターに興味を覚えたとかいうことであれば、なんとなく想像がつくのだが、アイヌとなるとどういうシチュエーションでそうなったのかが思い浮かばないということだ。

よほど強烈なきっかけと動機があって書き始めたのだろうと推測するのだが、しかし、その割にはこの作品は、ひたすらアイヌに焦点を当てた小説ではなく、一方でロシア占領下にあるポーランド人を描いていたりもする。

アイヌ→樺太→ロシア→ポーランドという、いわば複雑な占領の構図及び歴史から必然的に導かれたのかもしれないが、しかし、2人の主人公は途中からストーリー上ではほぼ枝分かれしてしまっており、そのため印象がやや散漫になっているきらいもある。

とは言え、樺太を中心に西はロシア本土からポーランドまで、そして、北海道、東京、ついには南極大陸まで、多くの国をまたがった壮大なストーリーと設定であるのは間違いない。その膨大なストーリーが読者を追い立てて行く。

僕の趣味としては、しかし、こんなにスラスラ読める小説でなくてよかったのではないか、もっともっと細かい部分を書き込んで、複雑で読みにくい大著であってほしかったなあと思う。そういうのが僕の好みである。

しかし、僕のようなねじくれた変わり者ではない読者の皆さんにはストレートに受け入れられるんだろうなと容易に想像がつく。

いや、僕にも充分面白かったのは確かで、アイヌの山辺安之助ことヤヨマネクフも、ポーランド人のブロニスワフ・ピウツスキもとても魅力的なキャラクターだった。

そして、全編を読み終えてから、ヤヨマネクフもブロニスワフ・ピウツスキも、その弟のヨゼフ・ピウツスキも実在の人物であり、かつ、弟はポーランドの初代国家元首であることを知った。

最初からそのことを知って読んだらもっと面白かったのかもしれない。

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