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Saturday, August 29, 2020

映画『青くて痛くて脆い』

【8月29日 記】 映画『青くて痛くて脆い』を観てきた。狩山俊輔監督。

全く知らない監督だったけど、結構良かった。画が良い。

常に横断歩道の白い部分だけを踏んで渡る寿乃(杉咲花)を、最初は横から映し、そのあと真上からの画になるきれいな構図。

校舎の3階か4階の教室の窓から月に向かって叫ぶ寿乃と脇坂(柄本佑)を地上の暗がりから見上げる田端(吉沢亮)。

田端と寿乃の会話、そして、もみ合いになっている瑞希(森七菜)と大橋先生(光石研)──少し離れた場所で同時進行しているこの2つの場面を、交互に細かく繋いで行く手法(大橋先生が怖い!)。

誰もいない階段教室で言い合いになる田端と寿乃を、引き画の長回しと画面いっぱいのクロースアップの組合せで見せていくシーン。

ちゃんと頭の中に絵がある人だと思う。撮影監督は花村也寸志という、これまた僕は聞いたことない人──と思って調べてみたら、なんと、これまで4本も観ていた。

『ビリギャル』とか『チア☆ダン』とか、結構 TBS出資作品が多い。監督は今まで日テレの仕事が多かったみたいだし、却々面白い組合せだ(ちなみにこの映画は日テレ出資)。

タイトルの通り、青くて痛い奴が出てくる。──大学に入ったばかりの秋好寿乃。

「世界の一人ひとりが平和を望めば戦争はなくなる」みたいな青臭い理想論を、臆することなく一途に主張する。その分、偏見を持たず、誰彼となく声をかけて、自分のところに引き込んで行く。

一方、最初の授業で寿乃が質問するのを目の当たりにして「なんとウザい女だろう」と思った田端は、彼女とは対照的に、自分が傷つくのがいやだからできるだけ他人と接触せず、目立たないようにしている。

そんな彼が彼女に巻き込まれて、世界をより良くする秘密結社(サークル)「モアイ」を2人で作る。

この時点では「青い」と「痛い」は分かるが、何が「脆い」のかまだ見えない。

シーンはすぐに変わって、3年後。

就職の内定が出た田端が親友の董介(岡山天音)と居酒屋にいる。そこに今や巨大組織になったモアイの連中が客として入ってくる。田端はもうモアイとは関係していない。彼は董介に「実はモアイは自分と友だちが2人で作った。その友だちは死んでしまった。自分は復讐のためモアイを潰す」と宣言する。

そこからは回想と3年後が交互に編集されている。時間の経過は非常に分かりやすい。

最初は何かにつけて後ろ向きだった田端が寿乃の薫陶を受けて成長する話かと思っていたら、詳しくは書かないが、大きな転換がある。

原作は『君の膵臓をたべたい』の住野よるだ。結構エグい。そしてキツい話だ。人が傷つく話。そして、人間の矮小性をとても上手に描いた話だと思う。

それ以上は書かない。却々良い映画だった。

始まっていきなり杉咲花の巧さに仰天した。最初の頃の立板に水の喋り方から、後半では一転して、目一杯ためて長い間を置く台詞回しに心底しびれた。吉沢亮も非常に良かった。そして、大学生の2人に対して如何にも大学院生らしい感じを見事に出していた柄本佑、なんだかよく分からないが猛烈に怖かった光石研。

学校の友だちを演じた岡山天音と松本穂香もリアルだった。松本穂香って意外に巧いね。改めて認識した。

そして、鈴木常吉が出ていた。ひょっとしたらこれが遺作になるのかな。

女の子に「気持ち悪い」となじられるシーンが痛かった。女の子は割合よくこの表現を使う。主に男性の性的な傾向について、あるいはそれを不当に拡大して恋愛観に対しても言ってくる。

男子は女子を貶す時、あまり「気持ち悪い」という表現は使わない。それだけに言われるとこたえる。僕は面と向かって言われたことはないが、陰ではきっと言われたことがあるんだろうなと、そんなことを考えながら映画館を後にした。

青くて痛くて脆い映画だった。

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