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Saturday, July 04, 2020

映画『MOTHER マザー』

【7月4日 記】 映画『MOTHER マザー』を観てきた。大森立嗣監督。邦画のフィクションを観るのは実に3ヶ月半ぶりである。舞台挨拶付きだと思ってチケットを取ったのだが、よく見たら「舞台挨拶中継付き」だった。Mother

秋子(長澤まさみ)はお金にも男にもだらしない女。初めはシングルマザーかと思ったのだが、後のシーンで元夫が出てきて、離婚して息子を引き取ったのだということが分かる。

息子の周平(幼少時は郡司翔)には彼女なりに愛情を傾けてはいるものの、小学校にも通わせず、親きょうだいから金をせしめるためのダシに使い、実家や妹の家にひとりで行かせて小芝居をさせ、それでもお金がもらえなかった周平を大声で罵倒する。

しかし、周平はまさに秋子の呪縛にかかったかのように、言われるままに動いてしまう。実際、当惑や嫌悪感もありながら、周平は周平で秋子のことが好きなのである(終盤の台詞に出てくる「共依存」と呼ぶべき関係なのだろう)。

しかし、秋子に働く気はほとんどなく、パチンコばかりしているので、いつも金がない。家のガスや電気もよく止められる悲惨な生活である。窮地に陥ると彼女は男に色目を使って金をせしめようとする。

そんな秋子がゲーセンでホストの遼(阿部サダヲ)と会って、ふたりはすぐに出来てしまう。ちょうど行く当てのなかった遼が家に転がり込んでくるが、これがまた絵に描いたようなゲス男。そんな男でも秋子は一旦男に嵌ってしまうと、子供を何日もひとりで置き去りにしたまま、男とどこかに消えてしまったりする。

しかし、秋子の妊娠を機にふたりは破綻。遼は出ていってしまう。後半はそれから5年後、周平(成長後は奥平大兼)は十代半ばに達しているが未だに学校には行かず、母と妹・冬華(浅田芭路)の3人で路上生活者となっている。

陰惨な話である。「毒親」と言う安易なタームでまとめてしまいたくないが、秋子には全く共感が持てない。遼もしかり。監督の言葉を借りると「許容範囲を超えている」。

ただ、人間というものは、どこかで踏み外してしまって、そのまま悪循環に嵌ってしまうと、こういう言動をする人間になってしまう可能性がある、ということは想像できる。実際周りにそういう人がいないかと言うと、そこまで極端な人はいないにしても、似たようなメンタリティの人はいる。

例えば僕の父などはそうだ。彼は、秋子と同じように、僕のことを自分の所有物だと思っていたのではないかと思う。

そういう嫌ぁな感じを、長澤まさみも阿部サダヲもスロットル全開で見事に演じている。長澤まさみはこれまでにも割合広くいろんな役をこなしてきたが、これは明らかに新機軸だろう。そして、普段は割合弱い役が多かったりもする阿部サダヲは、その弱さの裏返しの虚勢を張った感じがよく出ていた。

映画の描き方としては、こんな恐ろしい母親がいたというある種サイコ・ホラー的な扱いでもなく、逆に人間誰しもこういう面があるのだという訳知り顔の語り口でもない。また、描かれるのは秋子ばかりではなく、その対極に周平がいる。彼の存在はときには憐れに思え、ときには全く理解不能である。

大森監督はこう語っている:

言葉で説明できるような、わかりやすい女性像を描きたいわけでもないですし。

だから、非常に後口の悪い映画だが解釈の余地は広く、余韻は深く、いつまでも考えさせられる。

一つひとつのカットがかなり長い。そこで時々滞る“間”が、とても恐ろしい。大森立嗣と港岳彦による脚本(台詞回し)は本当に見事だ。

市役所の福祉関係の職員で秋子にたぶらかされてしまう宇治田に皆川猿時、児童相談所の亜矢に夏帆、秋子たちが暫く定宿にしていたラブホの経営者に仲野太賀、秋子の母に木野花と、共演陣もそれぞれに良い演技をしている。

とりわけ演技未経験ながらオーディションで選ばれた奥平大兼(おくだいらだいけん)が素晴らしかった。何か賞が獲れるかもしれない。

コロナの影響で“中継”になってしまった舞台挨拶だが、どうせやるなら少しインタラクティブにすれば良いのにと思っていたら、昨日オープンしたばかりの TOHOシネマズ池袋の客席と結んで、それなりの設えを作り上げていた。

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