映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』
【6月20日 記】 映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』を観てきた。3/27以来の映画館だ。めちゃくちゃ面白かった。
大島新監督。僕はドキュメンタリに疎いので、CX時代は全く知らない。独立してネツゲンを設立してから、彼が担当した『情熱大陸』を何本か観た。誰の回だったかは憶えていないが、なんか印象に残った。厳しい人だろうなと思った。
その頃インターネットで彼の記事を読んで、大島渚の息子だと知った。本人にとって嬉しいことなのか嫌なことなのかは知らないが、僕はそれで一発で名前を憶えたわけで、そういう意味では得をしている。
これは香川県選出の衆議院議員・小川淳也を追ったドキュメンタリである。香川県の高校から東大を出て総務省に入り、2003年に32歳で民進党から立候補した(この時は落選)。その小川の妻が大島の妻の同級生で、話を聞いて興味を持った大島が香川県まで出向いて、当てもなくカメラを回したのが最初だという。
小川は政治家になることではなく国を変えて行くことを目指して、周囲の大反対を押し切って立候補した。熱い男である。民進党では前原誠司の側近として活躍しながら解党の憂目に遭い、一時は小池百合子の希望の党に身を寄せたが、今は無所属となり、立民党の会派に所属している。
最近では、経済統計不正について国会で代表質問に立ち、一躍名を馳せた。ネット上では「統計王子」なる愛称もついた。
ただ、政策に長け、溢れんばかりの情熱はあっても、政治家としての野心に欠け、党内の駆け引きにも興味がなく、また、選挙区で勝てず比例復活が多いため、党内での発言力も却々大きくはならない。
そのことを踏まえて、大島新は「なぜ君は総理大臣になれないのか」とタイトルを付けた企画書を書いて、それを小川にぶつけるところから映画は始まる。霞が関を歩く大島をカメラマンが右後ろから撮った画が最初の映像である。ナレーションは大島自身のようだ。
冒頭に書いたように、めちゃくちゃ面白かった。だが、僕は若い頃からドキュメンタリというものにあまり興味が持てなかった。それはそこにあるものを映像に切り取っているだけで、「だって、何も作ってないやん」と思っていたからだ。
もちろん膨大な取材映像の中からどれを採ってどう繋ぐかという構成や編集の巧拙の差はつくのだろうが、それは編集前の素材と編集後の作品を比べて見せてくれるのであればいざ知らず、そうでなければ素人には却々実力もセンスも見抜けないし、自分なりの好き嫌いさえ言えないのである。
そういう意味で、僕にとっては、ドキュメンタリというのはあまり観る愉しみがないものだった。
そして、この映画もまた、小川淳也というキャラクターと、その家族と、この17年間の政治情勢が面白いからこそ面白いのであって、大島新はその面白いところをただ撮っているだけと言えば撮っているだけである。
でも、最近思うのは、多分そういう撮り方でこそ初めてちゃんとしたものが撮れるのであって、「あたしが良いドキュメンタリに仕上げるわよ」みたいな思いで撮っているとろくなものにはならないんだろう、ということだ。
大島は局の報道マンではないという気楽さもあるのかもしれないが、公正中立なドキュメンタリを撮ろうなんて全く思っていないように見える。
もちろんジャーナリストとしてのバランス感覚を働かせながら撮っていることは重々感じられるが、それでも彼の目指すところは公正中立でもなんでもなく、ただただ小川に対する好意と期待感を一心に注ぎ込んで撮っているのがひしひしと伝わってくるし、その好意と期待感こそが17年間取り続けた動機になっている。
そう、まさにそれこそがこのドキュメンタリのネツゲンであり、それこそがこのドキュメンタリの面白さなのではないかなと、そんなことを考えた。
これを機会に世間が、特に若い人たちが、政治に対する関心を取り戻してくれることを心の底から願っている。そういうきっかけになり得る映画である。
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