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Tuesday, June 16, 2020

『忘れられる人』

【6月15日 記】 『忘れられる人』を観た。Thanks Theater の3本目。熊澤尚人監督、29分、2016年。

僕は熊澤尚人監督の映画を結構見ている。映画館で観たものもあれば、テレビなどで観たものもあるが、

  • 『虹の女神 Rainbow Song』
  • 『DIVE!!』
  • 『おと・な・り』
  • 『君に届け』
  • 『近キョリ恋愛』
  • 『心が叫びたがってるんだ。』
  • 『ユリゴコロ』

と、全部で7本も見ている。これは『近キョリ恋愛』と『心が叫びたがってるんだ。』の間で作られた短編だ。恋愛の映画が多い。「なんだ、あまっちょろい」などと言う男性諸氏も多いだろうが、僕は好きだ。

この作品もある意味恋愛モノだが、出だしはかなりミステリっぽい。

柏木(落合モトキ)という青年が出てくる。農業の日雇い労働をしている。受付に行くと「初めての人ね」と言われる。現地に行く車の中で「柏木さんは初めてだね」と言われる。なんとなく他人を寄せ付けない雰囲気で、昼休みも一人離れて本を読んでいる柏木。

ところが、翌日、柏木が同じ農業バイトの受付に行くと、昨日と同じ女性がやっぱり「初めての人ね」と言う。現地に行く車の中では、「柏木さんは初めてだね。農作業の経験はある?」と、昨日と全く同じことを訊かれる。

影が薄いということか?

ところが、その日、柏木はコンビニで昔の知り合い(金子ノブアキ)と会う。名前を呼ばれて柏木は驚く。彼が自分を憶えているからだ。柏木は「嘘じゃないんで…。真剣に聞いてください」と彼に告白する。柏木はある日突然家族からも友だちからも忘れ去られて、家にもいられなくなり、仕方なく日雇いの仕事を転々としていると言う。

それを聞いた男は、「新たに知り合っても一晩寝たら誰も覚えてないんだろ? 俺も同じだ。俺たちは忘れられる人なんだ」と言う。

──面白そうでしょ? 短編なのにそこまで書いて良いのかと思わないでもないが、この先がまた面白いから、このくらい書いても良いのではないかと思う。

その後、農作業の現場で知り合った神保さん(早織)という女性が出てくる。彼女も不思議なことに、一晩経っても彼のことを憶えているように思える。果たして自分のことを憶えているかと、恐る恐る話しかける柏木。

さて、短尺だけに、この映画はやや尻切れトンボな感じで終わる。しかし、とても印象的なカットで終わる。そう、この監督の映画はとにかく印象に残るのである。いや、どこか特定のシーンが記憶に残るのではなく、むしろ映画全体が心に残るのである。

だからこそ、ここで終わられると心残りである。続きを撮って2時間の映画にすれば良いのにと思う。ここで終わるからこそ、我々はどこまでも引っ張られるのかもしれないが…。

撮影は『帝一の國』、『おじいちゃん、死んじゃったって。』、『ユリゴコロ』、『ホットギミック ガールミーツボーイ』などの今村圭佑である。

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